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前世歴女な後宮の姫は、こっそり軍師になる~誰からも忘れられた病弱皇女の密かなる献策が、傾国の危機を救うまで~  作者: ヲワ・おわり
第9章:帝国の影

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仕組まれた罪

 首都・黄都。

 民衆の前で銀狼平原の「勝利」を祝う凱旋式が執り行われている。

 しかしその中心で民衆の歓声に応えているのは趙子龍ではなかった。

 馬上で傲然と胸を張っているのはほとんど無傷の呉将軍と、その背後にいる皇太子・李誠だった。

 彼らはこの凱旋式を自分たちの権威を高めるための壮大なプロパガンダとして利用していた。

 一方、本当の死闘を演じた趙子龍と彼の生き残りの部下たちは、この式典には呼ばれていない。彼らは市井の片隅の兵舎で傷を癒し死んだ仲間を弔うことしか許されていなかった。


 凱旋式の後、朝議の場で呉将軍が李誠と事前に打ち合わせた通りの「戦果報告」を芝居がかった身振りで始めた。

「陛下! この度の勝利は誠に紙一重でございました!」

「趙子龍はあの正体不明の軍師の策を妄信し功に焦って突出。作戦を危険に晒したため私が身を挺して救援し辛うじて勝利を得ることができた次第にございます!」


 彼の報告は事実(子龍が突出したように見えた)と嘘(自分たちが救援した)を巧みに織り交ぜている。何も知らない者たちが聞けば完全に真実だと思い込んでしまう悪意に満ちた「物語」だった。

 病で判断力が著しく低下している皇帝は愛する息子と名門の将軍の言葉を疑うことなく信じてしまう。彼は趙子龍への失望と裏切られたという怒りに顔を歪めた。


 皇帝の心が完全に自分たちに傾いたのを確認した李誠は、この陰謀を完成させるための最後の쐐を打ち込む。

「父上。恐れながら申し上げます。これは単なる趙子龍の突出ではございません。…これは明確な『反逆』の企てにございます!」

 彼は懐から数通の巻物を取り出し皇帝の前に広げてみせる。

 それは皇后の配下の書家が筆跡を完璧に真似て作成した偽の手紙だった。

 一通は軍師を騙り「この戦の混乱に乗じて共に皇帝に反旗を翻し新しい国を築きましょう」と子龍を唆す内容。

 もう一通は子龍を騙り「先生の命令とあらばこの趙子龍いつでも剣を抜く覚悟にございます」とそれに呼応する内容。

 これにより趙子龍のこれまでの功績そして軍師との連携、その全てが「帝位簒奪のための周到な計画」であったという完璧なストーリーが完成してしまった。


 決定的な「証拠」を突きつけられ皇帝の疑念は怒りへと変わる。

 彼は震える声で非情な勅命を下した。

「――趙子龍を反逆者として捕らえよ!!」

「奴を天牢に投獄し厳しく尋問せよ! 背後にいる軍師の正体も白状させるのだ!」


 帝国の英雄は一夜にして反逆者へと突き落とされた。


 ***


 静思堂。

 その勅命が下されたという報せは王皓月によって即座に玲蘭の元へも届けられた。

(…間に合わなかった…)

 彼女は自分の力が及ばない場所で最悪の事態が進行してしまったことに言葉を失う。

 遠くから禁軍が子龍のいる兵舎へと向かう騒がしい物音が聞こえてきた。

 玲蘭はその音を聞きながらぎゅっと唇を噛みしめる。

 その瞳の奥で何かがぷつりと切れる音がした。

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