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炎と、鬨(とき)の声

 崖の上。子龍と五百の兵士たちは息を殺し、眼下を行進してくる蒼狼国の補給部隊を睨みつけている。

 玲蘭の予測通り、補給部隊の護衛は驚くほど手薄だった。帝国軍を「城に籠もって震えているだけの臆病者」と完全に侮りきっている証拠だ。彼らはまさか自分たちの背後、帝国の領土のど真ん中で奇襲を受けるなど夢にも思っていない。


(軍師先生の言う通りだ…驕れる者は久しからず、か)


 子龍は勝利を確信しながらも決して油断せず、完璧なタイミングを待った。


 長大な補給部隊の最後尾が完全に隘路あいろに入りきった。前後の逃げ道を完全に塞ぐことができる絶好のタイミング。

 子龍は無言で弓を構え、一本の火矢を天高く放つ。

 それが地獄の蓋を開ける合図だった。


 合図と共に崖の両側から油を染み込ませた大量の薪の束が隘路の入口と出口に一斉に投下される。瞬く間に巨大な炎の壁が立ち上り、補給部隊は袋のネズミとなった。退路を断たれた敵兵の間に動揺が走る。

 混乱する敵兵の頭上から、子龍たちの部隊が放つ無数の矢が黒い雨のように降り注いだ。荷駄を引く馬は暴れ、兵士たちは為すすべもなく射抜かれていく。


 敵陣が最大限に混乱したのを見計らい、子龍は剣を抜き雄叫びを上げた。

「全軍、突撃ィィィッ! 帝国の意地を見せてやれ!」


 彼は崖の急斜面をまるで平地のように駆け下り、敵陣の中心へと躍り込む。彼の振るう長剣は薙ぎ払えば数人の敵兵が吹き飛び、突き込めば分厚い革鎧をも貫く。その姿はまさに若き獅子だった。

 子龍の神がかり的な武勇に鼓舞され、部下たちも死兵と化して敵陣に斬り込んでいく。これまで飢えと敗北に喘いできた彼らの鬱憤が今、爆発する。彼らの剣には理不尽な上官への怒り、故郷への想い、そして自分たちに勝利への道を示してくれた、まだ見ぬ軍師への感謝が込められていた。


 戦いはもはや戦闘ではなく一方的な掃討戦だった。

 護衛部隊は壊滅し補給物資は燃え盛る炎の中に消えていく。


 子龍は討ち取った敵将の首を高く掲げ、天に向かって人生最大の鬨の声を上げた。

「「「うおおおおおおおおっ!!」」」

 五百の兵士たちの声もそれに続く。

 それは敗北続きだった帝国軍が初めて上げた勝利の産声だった。


 燃え盛る荷駄から立ち上る黒煙は、まるで巨大な狼煙のろしのように天高く昇っていく。

 それは帝国の反撃の始まりを、そして歴史の転換点の到来を大陸全土に告げる狼煙だった。

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