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仕事を継承する

メイはジンの部屋の敷居に立ち、手を戸口にかけたままためらっていた。マスター・リンがジンの見舞いから戻って三日が経っていたが、いつもは冷静な彼の顔には心配の色が浮かんでいた。「医者は回復すると言っていたよ」と彼はメイに伝えた。「でもメイ、君が行くべきだ。ほんの少しでも。彼は君を呼んでいる」


メイはその時、いくつもの言い訳を並べた──仕事が山積みだとか、チェン・ルーの手伝いが必要だとか、家計簿が未整理だとか。どれも嘘だった。彼との間に漂う気まずい空気を再び感じたくなかったのだ。祭りの夜に提灯の下で交わした苦々しい言葉がまだ心に刺さっていた──ホンの手紙を妨害したという彼の告白、怒りに満ちた自分の言葉、そして彼を軽蔑してその場を去ったあの瞬間。


だが、ジンの容体の噂は彼女の眠りをかき乱した。囁かれていた──ホ・ウェイミンの宴会でジンが殴打され、瀕死の重傷を負ったと。彼が殴りかかる前に、彼女の名誉を守ったのだという。その思いが胸に重くのしかかっていた。


一人の若い女中が部屋から出てきた。血の混じった水の入った洗面器を抱えていた。メイを見ると素早くお辞儀をし、狭い廊下を急ぎ足で去っていった。


メイは深く息を吸い、扉を押し開けた。


目の前の光景に、息が詰まった。ジンは枕に寄りかかっていたが、ほとんど別人のようだった。顔は腫れ上がり、左目は完全に閉じ、皮膚は紫と黒に変色していた。唇は裂け、かさぶたに覆われていた。胴体には包帯が巻かれ、呼吸するだけでも苦しそうに身を固くしていた。かつて学者らしい鋭い光を宿していた彼の瞳には、今やその輝きはなく、魂までもが折れているように見えた。


その瞬間、メイの中で何かが結晶化した。過去の複雑な感情を突き破るような明確さだった。


「ジン」彼女の声は思ったよりもずっと優しかった。


ジンはゆっくりと顔を向け、唯一見える方の目で彼女を見つめた。「来てくれたんだな」と彼はささやいた。傷ついた唇からかすれ声が漏れた。


彼女は彼のそばの椅子に腰を下ろした。抱えていた怒りは、罪悪感と心配、そして予想もしなかった優しさへと変わっていった。「あなたが私のことで傷ついたと聞いたの。本当にごめんなさい」


ジンは驚くほど力強い口調で答えた。「君のせいなんかじゃない。そんなふうに思わないでくれ」彼は息を整えながら続けた。「ホが僕のことをしつこく話していて、耐えられなかった。僕が先に手を出して、その結果こうなった」


メイは、かつて美しかったジンの顔を思い出した。今は腫れ、打ち身に覆われている。以前は自信に満ちて魅力的だったその声も、今やかすれたささやき声。そんな彼の姿に、思いがけない痛みが胸を締めつけた。


ジンは体勢を少し変えようとしながら、何かを語る決意を固めたようだった。「メイ、もっと大事なことがある。僕の怪我よりも、ずっと」


メイは黙って、彼が思考を整理するのを待った。


「僕はホ・ウェイミンの不正の証拠を集めてきた。書記としての立場と学院での人脈を使って」彼の声は語るほどに力を帯びていった。「偽造された借用書、違法賭博の実態、あの仮面の子供たちとの関係──全部記録した」


メイの目が見開かれた。「ジン、それって危険すぎるわ──」


「仲間がいた。密告者、警官、役人の部下、秘密結社の人間まで」彼は深く息を吸った。「持っている金はすべて使ったし、マスター・リンにも借金した。書記の仕事で得た書類を照合して、証言と財務の不正を繋げた。何年もかかったんだ」


「どうして私にそれを言うの?」


「君に、この証拠を裁判所に届けてほしい。全部だ」彼の唯一の目が、必死の光で彼女を捉えた。「ホに公平な裁きを求めてくれ」


そのとき、先ほどの女中が入ってきて、革の鞄を手にしていた。ジンが弱々しくうなずくと、彼女はそれをメイの椅子の横にそっと置いて退出した。


メイは鞄を開けた。丁寧に整理された書類が詰まっていた──財務記録、証言書、違法活動の場所を示す地図、すべてがジンの几帳面な筆跡で書かれていた。


「今の僕には、この件を戦い抜く時間はない」とジンは静かに言った。


メイは動揺した。「そんな言い方しないで。医者は数週間で回復すると言ってた。ただの怪我よ。死ぬ病気じゃない」


ジンは何も言わなかった。沈黙が、より深くメイを苦しめた。


「他にも彼を告発しようとした人はいた。でも、意味があった? 彼には力があるし、繋がりもある──」


「それでもやってくれ」とジンはさえぎった。声はかすれていたが、確かだった。「お願いだ。試してみてくれ」


メイは膝の上の証拠に目を落とし、そして傷だらけのジンの顔を見つめた。祭りの夜の喧嘩を謝りたかった──でも、今の彼の姿を前にして、それを言うには遅すぎる気がした。


何か言おうとしたとき、ジンの目がゆっくりと閉じていった。先ほどの会話に使った力が尽きたように、彼は枕に沈み込んでいった。二十代の若者とは思えぬ、老いた人のような姿だった。


「ジン…?」メイがささやいた。


だが彼は眠っていた。呼吸は浅く、不規則だった。メイの目に涙がにじんだ。必死に、そして不器用に彼女を愛した男。打ちのめされ、壊れながらも、なお自分より大きな敵と戦おうとする男。


メイは立ち上がり、扉の前で立ち止まった。革の鞄を胸にしっかりと抱いた。そこにあるのはただの書類ではなかった。もう自力では運べなくなった、彼の未完の労苦が詰まっていた。


若い女中が廊下に立っていた。顔には静かな心配の色が浮かんでいた。


「彼をお願いね」とメイは優しく言った。「何かあったら、マスター・リンに伝えて。私もただの女中だから、分かることもあるの」


女中は小さくうなずいた。「彼…よくあなたの話をします。目を覚ましているときは、ですけど」


メイは小さく微笑み、外へ出た。日差しは眩しすぎ、街の音はうるさすぎた。彼女の腕の中には書類の重み、そして──彼の手に余るほど大きかった、未完の闘いの重みが抱かれていた。


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