子供だましの花ふたつ
中学生時代を思い出して読んでください!
中一なので語彙や表現が劣っていますが、何卒何卒。
第一章:沈黙の教室
昼休みのざわめきが、カーテン越しににじむ光と一緒に教室を満たしている。
私はその波に、身を委ねるふりをしているだけ。
「ねえ、それさー、超ウケるんだけど!」
誰かの笑い声に、私も笑う。
けど、喉の奥で転がるその声は、私のものじゃないような気がした。
「嫌われたくない」っていう感情だけで動いてる。最近はそればかり。
黒板の隅、Bがよく座っていた席を目で追いかける。
今は違う子が座ってるのに、そこだけがぽっかりと浮いて見えるのはどうしてだろう。
私とBは、昔よく一緒にいた。
放課後、帰り道、くだらないことで笑って、内緒話をして――
でも、いつからか話さなくなった。
自然に、じゃなくて、「気づいたらそうなってた」って言い訳をしてる自分が嫌いだった。
教室の空気は薄くて、声は反響しすぎて、自分の気持ちがどこにあるのかわからなくなる。
でも、それがいい。
誰かに「わたし」が見つかったら、壊れてしまいそうだから。
愛想よく笑う。
誰の前でも、同じように振る舞う。
けど、そんなの、別に私じゃなくてもいいじゃない。
面白ければ、優しければ、
誰でもよくて、私じゃなくていいんでしょ?
そんな風に思ってしまうのは、きっと私の心が子供だからだ。
誰かの言葉や態度に一喜一憂して、
勝手に傷ついて、勝手に閉じこもって――
じゃあ、初めから本当の私は存在していなかったのかもね。
夜。
ベッドに潜り込んで、目を閉じる。
Bの声がふと耳に蘇る。
「ねえ、これ見てよー、絶対好きなやつだから」って、満面の笑顔で差し出された漫画。
「わたしってこういうとこあるじゃん?」って、照れ隠しみたいに笑った顔。
…なんで、あのときちゃんと笑い返さなかったんだろう。
人との関係って難しい。
近づけば近づくほど、壊れるのが怖くなる。
だから私は、全部ごまかしてきた。
そして、失った。
でも、どれだけ誤魔化しても、心は覚えてる。
Bのことも、あの時間も、
本当は、忘れられてなんかいない。
だけど。
時は過ぎ、朝は来る。
そして私は、何もなかったように目を覚まし、また仮面をかぶる。
そうやって今日も、沈黙の教室を生き延びていく。
第二章:気づかれたくなかった気持ち
「最近、あの子ともう話さないの?」
誰かにそう聞かれた時、「あー、まぁね」って適当に返した。
うまく笑えてたかはわからない。
だけど、なんかそれで終わった。
そういうふうに、関係って壊れていくんだなって思った。
Aと、最近ちゃんと話していない。
いや、正確にはずっと話せていない。
ほんとは言いたいこと、山ほどあるのに。
胸の奥でごちゃごちゃに混ざって、ぐちゃぐちゃになって、
そのまま腐って、口に出すころには全部、違う言葉になってしまいそうで。
⸻
昔のAは、もっと笑ってた。
本当に楽しそうに笑うとき、Aの目はくしゃってなる。
私、その顔が好きだったんだ。ちょっと嫉妬するくらい。
でも今のAは違う。
誰と話すときも、同じような顔してる。
誰にでも同じように優しくて、当たり障りなくて、
たぶんそれで…私、寂しくなったんだと思う。
だってさ、そんなの、私じゃなくてもいいってことじゃん。
Aは、気づいてるくせに気づかないふりしてる。
それに、気づかれてたくなくて私も黙ってた。
どっちもズルい。
⸻
気づかれたくなかった。
Aを好きだったってことも、
Aのことをずっと気にしてたってことも、
全部。
でも、本当は。
話したかった。
戻りたかった。
あの頃の、バカみたいに笑ってた時間に。
教室の隅に座って、Aの机を見てる。
机には何もないのに、なんかそこにAの心が置いてある気がして、
たまに目を合わせそうになって、慌てて逸らす。
私、ほんとバカ。
⸻
放課後。誰もいなくなった教室。
窓から差し込む西陽が、黒板に影をつくる。
私は、そこに立っていた。
一歩も動けずに。
まるで、自分で作った檻の中に閉じ込められてるみたいに。
Aの名前を、心の中で呼んでみた。
それだけで涙が出そうになるなんて、知らなかった。
どうしてこんなに難しくなってしまったんだろう。
どうして、もっとちゃんと、大事にしなかったんだろう。
……ねえ、A。
「キラキラ輝く太陽で淡く染まった教室の影は、ゆらゆらと揺れた。」
あのとき、私たちが並んで立てるように創った台は、
いずれ崩れ落ちる運命だったのかもしれない。
そして今、それを直すのは――
きっと、創る以上に困難なのかもしれない。
第三章:再会 ― 言葉にならなかった想い
春。
少しだけ風がぬるくなった放課後、私は教室の隅で立ち尽くしていた。
久しぶりにAと視線が合った。
ただそれだけで、頭の中が真っ白になった。
なのに、Aは何も言わずに、静かに微笑んだだけだった。
あのときと同じ顔。
誰にでも向ける、あの顔。
でも、少しだけ、違って見えた。
私は、目を逸らさなかった。
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「……あのさ」
声が出るまでに、すごく時間がかかった。
ずっと胸の奥に沈んでいた何かが、ゆっくり浮き上がってきて、喉の奥でひっかかって、
でもそれでも、私は言葉にした。
「ちょっとだけ、話せない?」
Aが驚いたように目を見開いて、
次に見せたのは、ほんの少し泣きそうな笑顔だった。
⸻
河川敷のベンチに並んで座る。
沈みかけた夕日が川面に映って、キラキラ光ってる。
あの頃と、同じ景色。
「変わってないね、ここ」
Aがぽつりと呟いた。
その声に、私の中で何かがふわっとほどけた気がした。
「変わってないよ。……私も、たぶん、ずっとここで待ってた。」
あの教室で、毎日。
見えない誰かの背中を追いかけるようにして、
私は、Aのことをずっと考えていた。
⸻
あの時、Aが他の子たちと笑ってたの、
本当は私、すごく傷ついてた。
でも、それを怒る資格なんて私にはなかった。
だって、Aが傷ついてることにも、私は気づけなかったんだ。
「私、ほんとは……」
Aの声が揺れる。
夕日が目にしみて、顔がうまく見えなかった。
だけど、私は手を伸ばした。
自分でも驚くくらい自然に、Aの手を握っていた。
「言わなくていいよ。私も、言えなかったから。」
それだけで、胸の奥が熱くなった。
私たちは、言葉よりもたくさんのものを、伝えられた気がした。
⸻
沈んでいく陽のなかで、私の中に灯った感情は、
もう誰にも見せたくないほどに、強くて熱かった。
「キラキラ輝く太陽で淡く染まった教室の影は、ゆらゆらと揺れる。」
でも、もう私は揺れていない。
「何時か揺れていた私の心は落ち着き、
メラメラと湧き上がってくる闘志で燃えた。」
今度こそ、私はちゃんと、自分の気持ちに向き合える。
Aに向き合える。
もう、誤魔化さない。
第四章:再開 ― さいかい
「ごめんね、急にこんなの渡して」
そう言いながら、Bは一枚のスケッチを差し出してきた。
画用紙に描かれていたのは、二輪の花。
一輪は柔らかく淡い色、もう一輪は濃く鮮やかな色。
どちらも、丁寧に、心を込めて描かれていた。
「美術部で描いたの。意味は……あえて言わないよ。見たまんまだと思うから」
私はその絵を受け取り、ふわりと笑った。
⸻
新学期。
進級してクラス替えもあったけど、Bと同じクラスになった。
なんだか、神様が少しだけ気まぐれに微笑んだ気がした。
前みたいに、放課後を一緒に過ごすようになったわけじゃない。
けれど、お互いにほんの少しずつ歩み寄る距離が、心地いい。
変わったのは、周りじゃなくて、私たちのほうなんだ。
⸻
帰り道。
薄曇りの空からわずかに光がこぼれて、
その下で、私はBからもらった絵をじっと見つめていた。
小さな花ふたつ。
違う色、違う形。
だけど、同じ紙の上で、確かに寄り添って咲いていた。
「私たちも、こんなふうになれるかな」
声に出してみると、意外なほど穏やかだった。
これから衝突することもあるかもしれない。
分かり合えない瞬間も、また来るかもしれない。
でも、今度は逃げない。誤魔化さない。
Bとなら、それができるって、私は信じてる。
私は私のままで。
Bも、Bのままで。
それでも一緒に笑っていられる未来を、信じたい。
**
「これから衝突することもあるかもしれない。
だけど、私とBは分かち合えると信じてる。
時は過ぎ、朝は来る。明けない夜はない。」
私たちはまだ途中だけれど。
子供だましのように脆くても、
それでも、ふたつの花は確かに咲いている。
初めてなので不安があります.........