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千春  作者: 古砂糖
第1章 邂逅編
5/18

5、また会う日が楽しみだ


「ってなわけなんだよ。どう思う?」


根中は話を締めくくり、僕にリアクションを求める。


「はあ・・・僕の知らない間に大変な目に遭っていたんだな」

「それはいいんだよ、よくあることだしもうすっかり良くなったから。

それより、すごい偶然というか・・・もうこの際はっきり言うけど信じられないくらいロマンチックだと思わないか?まじで」


根中は目に光を宿しながら言った。


確かにそう思う。なんなら根中にとって彼女は命の恩人なわけで、そんな人が大変美しくて、そしてまた私を見つけてね、なんて言ってきたなら誰だってこの表情になるんだろう。


「だから俺はもう一度彼女に会わなきゃならない」



根中はしみじみとそう言った。

ただ、この短期間に、それぞれ白いワンピースの女に会うなんてどういう偶然だろうか。

そういうこともある、と簡単に片付けて良い事実だろうか。

同じようなことを考えていたのか、根中は改まった顔をして尋ねた。



「なあ、お前はおんなじ人間だと思う?俺が会った白いワンピースの女とお前が会った白いワンピースの女」


おんなじ人間、という言い方が妙に固く響いた。まるで何かの実験対象について話しているような質感だ。


「うーん、同一人物なんじゃない?話を聴いている限りあまりにも同じような特徴なわけだし。」

「まあ、でも同じなのは白いワンピースだけじゃないか?」

「いや、二人とも僕たちが困った時に現れて、颯爽と消えた点が共通しているよ」

「んー、言われてみれば」

「それに、この時期純白のワンピースだけで出歩く人間がそうたくさんいるとは思えないけどな」


うーん、と根中は顎に手をあてて考え込む。

その表情はとてもアンニュイなものだった。


「そうかな、俺はそう思わないな。なんか・・・まああくまで勘なんだけど」


そう前置きして、彼は実験の一つの結果を話すように言った。


「俺はお前の話を聞いて・・・なんというかな、お前の話に出てくるワンピースの女を、あまり魅力的だと思わなかった。

いや小話としては最高に面白いんだけど、その白いワンピースの女に俺は惹かれない・・・気がするんだよね」



よく僕の話を聞いただけでそんな適当なことが言えるな、と思った。不思議と僕はこのただ一つの感想にカチンときていた。

だがそれと同時に、さすが根中だなとも思った。正直僕も彼の不思議な彼女の話を聞いた時、確率的には同一人物だろうと推察するつまらない自分の一方で、僕の白いワンピースの女の方がなんというか・・・“本物の”白いワンピースの女であるように感じているメルヘンな自分がいた。

多分根中は根中でそう思っているのではないだろうか。

その感覚を根中も持ってくれている事実は、自分の直感を支持する大きな自信となった。



「それに俺とお前じゃ顔の趣味が違いすぎる、お互いの言う美しい、が大分ずれている」

「それは確かに」

「あと俺の勘は良く当たる」

「それも確かにそうだ。馬の着順以外は」

「とにかく、俺はやっぱり違うと思うなあ、ふああ」



根中のあくびと一緒に昼休憩終了五分前チャイムが鳴る。

おそらく読み続けたい本でもあるのだろう。

根中は早々に腰を上げる。


「まあもしまた白いワンピースの女に会ったらお互い情報を交換しよう」

「そうだな、そうしよう」

「次会えたら名前の一つでも聴いてこようぜ」

「任せろ、僕なんかすぐに会える気がするし」

「よく言うよ、まあ次会うのを楽しみにしてるわ、じゃな」


根中は小さく手を挙げて学食を出て行った。僕は彼の大柄で筋肉質な背中を見送った。

こんなに根中と早くまた会いたいと思ったことは久方無かった。

次話は11/20 21:00に投稿予定です!

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