3、二人の「彼女」
・・・ということの顛末を、僕は根中に話した。
根中は大学の同級生で、同じゼミに属している望まぬ腐れ縁の友人だ。彼は明るく快活で人たらし、それでいて少々ロマンチストの気があった。僕と対照的な人間だと、僕も思っているし彼も思っている気がする。根中ならこのロマンチックで間抜けな僕の不思議な体験を、鼻で笑い飛ばすことなく、興味を持って聴いてくれるだろうと思ったのだ。
夏休みなのに大学の学食に呼び出してみても、根中はいぶかしげな顔一つしなかった。
それもそのはず、彼は遊んでいそうな見かけとは裏腹に学問を愛していたから、休日も大学に入り浸り図書館で本を読みふけっていた。
だから僕が連絡を取ったときには彼は大学にいた。
「・・・ってことがあったんだ。どう思う?」
僕は自信を持って話を締めくくった。
「はあ、白いワンピースの女がラーメン屋でお前を助ける、それも美人?どうした夢でも見てたのか?」
「いやあ、僕もそう思ったよ、ほんとに夢みたいだったし」
「実際夢でも見てたんだろ、うらやましい限りだな」
根中は学食名物の特大唐揚げ丼を頬張りながら、僕の話に相づちを打つ。予想通りの食いつきに僕は満足げな笑みを浮かべる。相変わらずの聞き上手だ。
しかし、根中は意趣返しとばかりに不敵に笑い返した。
「・・・って言うと思ったか?」
「・・・まあ期待通りのリアクションだったけど」
「だろ?だってこのリアクションするの二回目なんだよ」
「?」
きっと豆鉄砲でも食らった顔をしていたのだろう。
今度は根中が満足そうな顔をしながら、ぐっと体を前に乗り出した。
そして、誰かに聞かれたら全てがおじゃんになるとでも思っているかのような、そんな必死さを孕んだ囁き声で、彼は言った。
「実はさ、俺も全く同じ体験をして、それを今日お前に話してやろうとうきうきして大学に来たんだ」
「え?」
「だから、俺もちょっと前、白いワンピースを着たあり得ない美人と、不思議なひとときを過ごしたんだよ、ちょっと聴いてくれないか」
思ってもみないことに、僕は”根中が白いワンピースの女と邂逅する話”を聞かされることになった。
普段だったら、鼻で笑い飛ばすというのに、真剣に耳を傾けている僕がいた。