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千春  作者: 古砂糖
第1章 邂逅編
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12-2、「白いワンピース」②

千春さんのさっきの反応を思い出す。

何か最後に僕に伝えようとした気がする。気のせいだろうか。

僕はふと気になり根中に尋ねる。


「そういえば、今もまひろさんは白いワンピースを着ているんだろう?」

「ああ、着ている」

「そして、君たちは恋人で、今は同棲までしている」

「お察しの通りだ」

「じゃあ例えば、彼女は寝るときに何を着ているの?

 まさかワンピースは着ていまい」

「そうだな。

 まひろも寝るときはパジャマだし、風呂に入るときはもちろん着ていない。

 もっと言えば、彼女は二人で部屋にいるときはワンピースは・・・」

「ワンピースは?」


根中は不審なタイミングで言いよどんだ。

僕が先を促すと、ばつの悪そうな顔で言った。


「着ていない。実は二人きりの空間になると、時々彼女の本当の姿がみえるようになる。」


根中はなぜかこの事実を話してしまった自分に驚いたような声で言った。


「俺たちでさえ、常に白のワンピースを着ているようには見えない。

 何か条件があるなとは思っていたんだ。またちょっと考えてみるよ」

「え、ああ」


この話題は終わり、と言わんばかりの根中に押され、僕は適当に相槌をした。

根中らしくない間の悪さが、車の中に目に見えるほど漂っていた。

なんとなく、彼は隠し事をしている気がした。


結局ドライブはそのまま終わり、車は彼の家の前に綺麗につけられた。

家の方を見るとやはりその大きな家からは人の気配がしなかった。

しかし、エンジン音を聞きつけたのか、しばらくして玄関の扉が開き、若い女の人が出てきた。


「まひろだ。」


根中と門をくぐり、僕は初めてまひろさんと相対した。

彼女はスウェットっぽいズボンに、よくある厚手のパーカーを羽織っていた。

部屋の中にいたからだろう、12月にしては薄着だ。


「初めまして、まひろです」

「ああ、初めまして」


まず大人びているな、と思った。

やはり印象は薄い。すこし切れ長な目と高い鼻筋は異国情緒があるけれど、町中ですれ違っても雑踏の一部としか認識できないだろう。

いや、もしかして。

彼女が白いワンピースを着ていれば、僕も彼女に深く惹かれるのだろうか。


僕は千春さんが好きなのか、白いワンピースが好きなのか、一体どちらなのだろうか。

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