表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千春  作者: 古砂糖
第1章 邂逅編
15/18

12-1、「白いワンピース」①

車はとうとう山道にさしかかった。木々は枯れ、車窓は寒々しい。

ただ根中は走り慣れているらしかった。スピードを落とさずに綺麗に曲がっていく車に乗っていると、器用に使われるはさみになった気分だった。

根中は話を続ける。


「つまり、さっき確認したように、俺たちが言うお互いの”白いワンピースの女”はお互いにしか見えていない。

 それは当の本人にも当てはまるってことだ。

 まひろ本人にも白いワンピースを着ている自覚はなかった」

「じゃあさっき千春さんはどんな服を着ていた?白いワンピースじゃなかったってのか?」

「ああ、厚手のパンツにコートを着ていた。冷静になれ、12月に白のワンピース一枚で出歩く大人なんて一人もいない」

「嘘だろ・・・」


千春さんの反応を見て分かっていたはずなのに、衝撃的だった。あんなに白のワンピースを着こなしてる千春さんが、実際には厚手のパンツにコートを着ていた、という事実が。

あまりのショックに本当にクラクラとして、一瞬視界がチカチカと光った。

根中は何も言わずにただ車を走らせる。その衝撃は痛いほど分かる、と寄り添うような沈黙であるように、僕は感じた。


「俺も驚いた。じゃあ一体俺が見ている現実は、どこまでが現実でどこまでが妄想なのか。

 白いワンピース一つで全ての前提は瓦解した。

 つまり、彼女の着ているあんなにも自然な白いワンピースが不確かなものならば、彼女が本当に存在しているという確かな理由なんてなくなる。もっと言えば、こんなちぐはぐな現実を観測している自分は、本当に確かな存在なのか?

 ここから先は袋小路だ。「本当に白いワンピースなのか」なんて考えるべきじゃない。

 だから今俺は「白いワンピースの女」を探すのではなく、「なぜ白いワンピースの女がいるのか」を探さなくてはならない」


ふと夢の中の「一般的な白いワンピースの女」を思い出す。

白いワンピースの女を捜してはいけない。女はそう言った。


根中も僕も彼女を探しているときには会えないけれど、ふとしたタイミングで出会っている。

いやそれは当たり前なのだ。大前提、どちらの「女」も僕たちの視界を通さなければ、ごく普通の女性なのだ。

僕らが普段から街角で出会い、すれ違うあまたの女性たちと変わらない。


訳が分からなくなってきた。


「だから確かめたかったんだ。

 もしお前にもまひろが白いワンピースを着ているように見えれば話は早い。

 だが違った。これはなにか個人的な問題なんだ。」


僕が千春さんを、根中がまひろさんを白いワンピースの女と認識している理由は、僕たち個人の中に原因がある。根中はそう結論づけた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ