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千春  作者: 古砂糖
第1章 邂逅編
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11-3、ロマンチスト③


根中の出会い話はロマンチックだった。

僕は根中が買ってきたあったかいカフェオレをすすりながら感心してしまう。

アイスはすっかり溶けてしまっただろう。

根中の語り口はどこか慎重だった。


「そうか、大分運命的だけどな」

「そう、彼女と俺はそこで急接近して、一緒に母の見舞いにもいった」

「まず名前はなんていうんだ?」

「彼女の名前は眞宙、まひろだ。

 2歳年上の23歳で社会人、保険会社に勤めている。

 残念ながら名前は千春じゃないぞ」


根中はそう言うとにやりと笑った。



「まひろとは時々病院で顔を合わせた。彼女は友達が入院しているらしくて、結構な頻度で病院に来るらしい。

 彼女の病院に行く頻度が高いからか、運命だからかは分からないが、俺が病院に行くたびに彼女はいた。

 5回ほど病院で顔を合わせて、病院の外でも会うようになった」

「・・・ずいぶん順調だ」


僕は根中が知らぬところでこんなにも進展があったことに真っ向からうらやましく、妬ましく思った。

根中はなだめるように話を続ける。


「はっきり言おう、3度のデートの後に、俺たちは恋人になった」

「恋人になった」

「彼女はいつだって白いワンピースを着ていたよ。

 病院の見舞いに来るときも、病院に行かなくなり外で会うようになってからも。

 でも俺はあえてそのことに触れなかった。」

「なぜ?」

「なぜだろうな。触れるまでもないくらい、そのワンピースが自然だったからかもしれない」


なるほど、確かにそうだ。

彼女たちが白いワンピースを着ていることは、朝目が覚めるの同じくらい当たり前の事のように思えた。

僕は大きくうなずいた。


「でも12月になって初めて会った時、ついに聞いてしまったんだ。

 だってあまりにも寒々しい格好だったんだ」

「寒々しく見えた?」

「もちろん、外は10℃を下回っているのに上着一つ着ていないなんておかしい。

 ・・・不思議なことに、その日までは疑問に思わなかったんだ。

 その日から急に冬っぽい気候になったわけでもないのに、なぜかその日、まひろを見た瞬間に違和感を覚えた」


つまり根中もさっきの僕のように、白いワンピースを着ていて当然だと思っていた。

だがとある日、唐突にそれがおかしなことだと思えた。

千春さんを、そして千春さんのワンピースを思い浮かべる。

僕にもそんな日が来るのだろうか。そうは思えなかった。


「だから俺は聞いた。なぜ白いワンピースを着ているのって。

 すると彼女は言ったよ。「白いワンピースってなんのこと?」ってね」


そこまで話すと、根中はハンドルを握る手でコンコンっとハンドルをたたいた。

ここからどのような道を走れば良いか、どうすればこのドライブの結末が納得のいくものになるのか、分かりかねているような表情だった。

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