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千春  作者: 古砂糖
第1章 邂逅編
13/18

11-2、ロマンチスト②

根中の語りは続いた。


「実は母が2ヶ月前くらいから入院してね、一旦母につきっきりの生活になっちゃったんだ。

 父は忙しすぎて、そして俺は一人息子だから、俺がなんとかしなくちゃいけなかった。」

「それであんなに長いこと大学に来なかったのか」

「ああ、恥ずかしい話、時間の使い方が上手ければ大学に行くことくらい出来た。

 ただ、弱っていく母を見ながら、父は働くのを全くやめなかった。

 そのことがどうしても腹立たしかったんだ。

 分かっている、父もそうしたくてそうしているわけじゃないことくらい。

 でも今、こんなに母が・・・死にそうな状況でも、父は赤の他人の命を救っている」

「・・・」


根中は多くは語らないけれど、この母の入院という機会に父とぶつかったのだろう。

言葉にはしないがそれは伝わってきた。

医者として死に物狂いで働き、自分を育てた父のことを尊敬している。

根中はよくそう言っていたが、そんな一つの感情だけで人間関係は片付かない。


根中が誰かと意見を強くぶつけ合う様子など全く思い浮かばなかった。


「それがやるせなくて、父と衝突して、自暴自棄になって。

 なにもかも無性に面倒で、大学を勝手に休んでたんだ。

 心配かけてすまんかった」

「・・・本当に大変だったな」

「ははは、まあな。どれもこれも俺が幼稚なせいさ。

 でも母の入院を機に、色々考えるようになった。

 これからどう生きていくか、どう生きていくのが望ましいのか。

 母は俺にどうなってほしくて母になったのか、そんなことまで考えた。

 考えていたら疲れちゃってさ、ある日気晴らしに歩いて病院まで行ったんだ。」

「歩いて?!」


聞くと母が入院している病院は彼の家から20kmくらいある。急いで歩いても5時間くらいかかるだろう。

根中は時々こういう危なっかしいことをする。


「へとへとになって病院に辿りついて、待合室でぐったりしているとき、彼女に会ったんだ。」

「あの救世主の彼女だ」

「その通り、あの雨の日と同じようにとても魅力的だった。

 なんだか疲れているみたいねと言って彼女が微笑んだとき、俺はこんなにくたくたになった俺を神様が褒めてくれているんだと本気で思ったね。

 何より、白のワンピースがよく似合っていた。

 彼女に会ったのは病院だったから一瞬白衣を着ているのかと思ったよ。

 でも白衣よりも白かったからね、すぐにあのとき俺を助けてくれた白いワンピースの女であることが分かった」


根中はやっぱり根っからのロマンチストなんだ、と思った。

現実を良く見つめ、悩み、でもどこかでそれを物語の主人公のように楽しめる、それが根中なのだろう。

僕よりも、ずっと大人であるように感じた。

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