兼家様の父君亡くなる
兼家様のお子は、ただいま男のお子が三人、女のお子が二人。そのうちの二人は、私のお子で、お二人ともかわいらしく、たいそう賢い。おじいさまは右大臣でいらっしゃるから、先が楽しみに思われる。二人目の男のお子は、例ののちの道綱様。(まだ幼名だけど、名前知らないし。)三人目の男のお子は、町の小路の女のところにおられる。二人目の女のお子は、源のなにがしの娘のところだ。まあ、お元気なこと。
ところが、兼家様の悪い癖が出て、男のお子が生まれて間もなく、町の小路の女のところには、通われなくなってしまわれたと聞く。しかも、このお子様は、はかなくなってしまわれた。同じ女の身として、気の毒なことこの上ない。
兼家様は、まずは道綱の母とよりを戻され、そののち、私のところにも通っていらっしゃるようになった。
彼の君は、とげとげしいお言葉や、態度ばかりでね。まったく癒されないのだよ。など、私に聞かせるべきでないことをこぼされる。
まあ、それは大変ですわね。と、微笑んで差し上げるのだけれど。相変わらず、お美しくて才知にとんだお歌をお詠みになるので、大切になさるようだ。兼家様の上の兄君の伊尹殿は、有名な歌人でいらっしゃる。伊尹殿が何かにつけて兼家様をひいきしてくださるのは、彼の方のおかげかもしれない。
私の正妻としての地位が揺らがないのは、なんといっても太郎君と一の姫の母であることだ。この世で、貴族として大事なのは美しい姫君を姉妹や娘として持つこと。
この姫も、身分の高い方に求婚されるかもしれないし。
兼家様の父上、右大臣藤原師輔殿がお亡くなりになった。ご病気で、出家されようとなさったのに、帝がお止めなさったと聞く。帝の女御安子様は、師輔殿の娘。兼家様の異腹の姉君。皇子様も、皇女様もお生まれだ。帝にとっては、頼りとする義父上。
その師輔殿がなくなったのだから、右大臣家はおおさわぎだ。兼家様も、忙しく我が家に戻られては、大急ぎで衣を変えてまた出ていかれ、戻られては出ていかれ、ゆっくり他家の女君のところにお泊りになることすらできない。
自然、私との仲が深くなる。
次郎君と二の姫が相次いで生まれた。