一条帝譲位
わたくしのお一人目の二宮様が生まれるまでには、7年の歳月がかかったのに、お二人目の宮様は、すぐ次の年の11月25日にお生まれになった。この度は、安産で、三人目の男皇子に一条帝はたいそうお喜びであった。そして、三日、五日、七日、十日の御産養おほんうぶやしないの祝い事が二宮様に勝るとも劣らず同じように続く。
ところが、その翌年、一条帝がお体を崩された。なかなか快癒されない。薬師によい薬を煎じさせ、読経も心を込めてさせていたのに。やっぱり、現代医学が恋しい。
わたくしの知らぬ間に、一条帝は、父道長に譲位の意向を伝えていらっしゃったらしい。ところが、わたくしの耳に届いたのは、もうご譲位が決まってしまってからであった。しかも、東宮は一宮敦康親王ではなく、二宮のわたくしのお子敦成親王だという。
なんてこと!わたくしはすぐに父を呼び出した。
「お父様、すぐに東宮を一宮敦康親王様になさってください。敦成親王様は、その次でよろしいではありませんか。わたくしは帝になられると思って一宮様をお育てしてきました。一宮様も、もちろん、そう思っておいでです。それを、おとうさまの一存で違えるとは、一条帝のお気持にも、天の理ことわりにも外れることではありませんか。」
語気も荒く詰め寄ったのだが、一宮様の後ろ盾がないことを理由に父に丸め込まれてしまった。悔しい。嘆かわしい。わたくしは、一宮様を守ることができなかった。




