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平安貴族物語 ~時姫から藤原彰子まで~  作者: かあなび1
第一部 時姫(道長の母)
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道綱の母

和歌の意味は、筆者の勝手な意訳です。(たぶん、こんな気持ちで歌っていると思います。)小学館の日本古典文学全集を参考に意訳しています。

 道綱の母が身ごもったと聞く。ということは、道綱が生まれるのか。兼家様にとっては次男で、三人目の子になる。恨む気持ちもあるが、この世界ではままあること。源氏の君も、浮気し放題だったし。

そう思っていたというのに、またも、平安の殿方の常、姫君が身ごもると浮気をなさる。この度は、町の小路の女のもとに通い始めたそうだ。そんな記述が蜻蛉日記にあったような気がする。あの時は、他人事だったので、たいして気にもとめずに読んでたけど。


やっぱり、あの(ひと)からお文が届いた。

美しい文字で、

「そこにさへ かるといふなる まこもぐさ いかなるさわに ねをとどむらむ」

(そちらにさえ、夜枯れになっていらっしゃるそうですね。いったいどこに通っていらっしゃるのでしょうか)

とある。私も、字が読めるようになったのだ。

 「枯れる」「まこもくさ(イネ科の多年草、食用になる)」「沢」「根」の縁語使って、兼家の夜枯れをともに嘆こうという歌だ。私から男君を奪っておいて、よくも今更。

 しかも、兼家様は、こちらには文だけなのに、あちらには時折訪ねていると聞く。


 この間、兼家様があちらにお訪ねになった折、なんと戸を閉ざしたまま追い返したと噂になった。しかも、その時のお歌が、素晴らしいと評判になっているそうだ。


 「なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる」

(あなたのお訪ねがないのを嘆きながら一人で眠る夜が、どんなに長いかおわかりになって?)

 夜が明けるのと、戸が開くのとを掛けた掛詞だ。うん、さすが。確か、百人一首にも採られていたな。


 この(ひと)の自己中にあきれながらも、仕方なく返歌をしたためた。えーと、確かこんな風の歌だった。。。出雲に教えてもらって、字も上達したのだ。

「まこもくさ かるとはよどの さわなれや ねをとどむてふ さわはそことか」

(夜枯れているのは、私のところだけですわ。そちらにいらっしゃるのでしょう。)



 兼家様は、町の小路の女に夢中におなりだ。私のことは、ほとんど放置。


 道綱の母のところへは、たまに行かれるようだが、あの(ひと)がそんなお通いで満足されるはずもなく、度々嵐が巻き起こっていると聞く。私のところにも、たまに彼の方からお文が届く。


「ふくかぜに つけてもとはむ ささがにの かよひしみちは そらにたゆとも」

(風が吹けば、兼家様のことがしのばれます。我が家にお通いになった道は、空へと消えてしまいましたが。)

美しい文字に、あの(ひと)の嘆きの深さが見えて、さすがに気の毒に思う。でも、それだけではない、複雑な思いに駆られる。

 古今和歌集の歌に寄せた本歌取りの歌だ。この歌の心がわかるのは、私だけ。己の心に正直で、でも、私の心はわかってくださらないのね。

 まったく、もう。兼家様への思いや、町の小路の女への思いを込めてお返事をしたためる。


「いろかはる こころとみれば つけてとふ かぜゆゆしくも おもほゆるかな」

(殿方の心は変わってしまうものなのですね。その風が兼家様のことだと思うと、嫌な気持になってしまいますわ。)



 兼家様との贈答歌も度々聞こえてくる。そのさまを他の殿上人に自慢そうに語られるそうだ。評判の才女を妻の一人としていることは殿上人のステータスとなるのであろう。

 

 兼家様があの(ひと)のところにご本をお忘れになり、使いの者をおやりになったので、ご本を包んだ紙に書かれた歌が

「ふみおきし うらもこころも あれたれば あとをとどめぬ ちどりなりけり」

(ご本を置いておいて、またすぐ来ようとも思っていらっしゃらないの。ここにいらっしゃった跡さえ消してしまうおつもりですのね。)

兼家様の返しが

「こころあると ふみかへすとも はまちどり うらにのみこそ あとはとどめめ」

(本は返してもらうとしても、あなたのところのほか、私が帰るところなどありはしない。わかっているでしょう?)

さらに彼の方の返しが

「はまちどり あとのとまりを たずぬとて ゆくへもしらぬ うらみをやせむ」

(まあ、よくおっしゃるわ。どこへ行かれたのか知れるはずもないほど、たくさんのお通い先があるのに。ああ、恨めしい。)


 お手本のような贈答歌ですこと。ちどりに寄せて女君が男君の不実をそしり、男君が愛をささやく。(本当は一人の女を大切になさるお気持などないのに…)ご自分のお歌もとても良い出来であったので、さぞご自慢そうに同僚の方々に語って聞かせたのであろう兼家様の姿が目に浮かぶようだわ。

 私は、平安時代のわき役女性になってしまった。



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