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「…そうか。そんなの嫌だよな。」

直哉は娘から一部始終を聞いた。


― って待てよ…。明らかに、ここ現代じゃなくね? 俺、タイムリープか異世界転生か、しちゃったわけ?

直哉は腕組みして考えた。娘はいろんな表情をしながら一人考え込む直哉を不思議そうにジッと見つめた。


「まぁ、とにかくここを脱出しよう。」

直哉は娘に言った。


「…無理だと思う。この沼は人を飲み込むと言われている恐ろしい沼で、生きて泳いで渡れた者はいないの。たった一そうの小舟はあの男が乗って行ってしまったし…。」

娘は言った。


「じゃあ、そいつを倒すしか無いって事か。」


「そんなこと出来る訳無いよ。あいつは大男だし、あんたはどうみたって私と同じくらいの年でしょ? かなうわけない!」

ソヨは涙ながらに言った。


「そう? 俺、そんなに弱っちく見えるのかな…。」


 直哉は子供の頃からサッカーで体を鍛えていたし、幼い頃から祖父に柔道も習っていて、体には自信があったので少しショックだった。


「…いいの。こんな見た目で生まれてきてしまったんだもの、お母ちゃんにも散々迷惑かけてきた。私が役に立つのなら我慢する。だから、あんただけでも逃げて! アイツはまた舟に乗って戻って来るから、その舟に乗って向こう岸へ渡るのよ!」


 娘は微笑みかけながら直哉に言った。しかしその細い体は小さく震えていた。その姿を見て直哉は娘が哀れになってきた。拳を握りしめている手が震えている。


― 本当に怖かったんだろうな…。

直哉は娘の震える手を両手でギュっと握って温めてやった。


 うわぁ~ん!


 娘は感極まったのか、その時初めて声をあげて泣いた。娘は美しい顔をしかめてボロボロと鳴いた。涙が止まらなくなってしまった。直哉はどうしていいのか分からず狼狽うろたえた。


「大丈夫! 俺がなんとかするから!」

直哉は娘をギュっと抱きしめ、頭を撫でてやった。


「…あんた、名前は?」

直哉は聞いた。


「…ソヨ。」

娘は鼻をグズグズ鳴らしながら言った。


「ソヨか…可愛い名前だな。俺は直哉。」


「…なお…や…? 変な名前…。」

ソヨは少し笑った。


「悪かったな! でも俺は気に入ってるんだ、自分の名前。」

ソヨの頭にあごを乗せ、直哉は名付けてくれた両親を思い出した。


「いいか、ソヨ! 俺に考えがある。おまえをここから助け出してやる!」

直哉はソヨの顔をのぞき込んだ。


「名付けて…スサノオ作戦!」


 何故かワクワクしている直哉をソヨはポカーンと眺めた。



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