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「ほぅ…この娘は…」
修行僧は値踏みするようにソヨを見つめた。
「おまえはこれからこの村の外れにあるくちなし沼に浮かぶ小島の社に行ってもらう。」
修行僧の言葉に村人は口々に呟いた。
「…あの魔物が住むという…あの小島に…」
「一度行ったらもう二度と帰ってはこれないと言われているあの社に…」
…クックックッ…
修行僧は心の中でほくそ笑んだ。
何を隠そう、この男は修行僧とは真っ赤な嘘で、遥か遠くの村から逃げ出した罪人だったのだ。
「娘、私と来なさい。」
修行僧は娘の手を引っ張った。
「ソヨ!」
おタカは涙ながらに娘の後を追おうとしたが、すぐに村人たちから取り押さえられた。
「お母ちゃん!」
ソヨは泣きながらおタカの元へ行こうとした。が、修行僧はソヨの手を引っ張り二人を引き離した。
修行僧は小舟にソヨを乗せ、クチナシ沼に浮かぶ小島へ連れて行った。
小島と言えども、一歩足を踏み入れるとかなり大きく感じた。小島には鬱蒼と木が茂り、外からは島の様子は見ることが出来ない。岸からも遠く離れているため、叫んでも声は届かない。そもそも忌み嫌われたその小島に行こうという者はいなかった。
「はやく来るんだ!」
島に着くと修行僧はソヨに怒鳴り、怯えるソヨの手を引っ張って社の中へ入った。
「おまえはこれからこの俺の相手をするんだ。」
男は言った。
「わ…私は神様の生贄としてここに来たんじゃなかったのですか?」
娘は怯えた。
「神様? そんなものいるわけないじゃないか! はっはっはっは…」
「そんな…」
「あぁ…そうだな…ここでは俺が神さまだ。ちゃんと奉公しろよ!」
男はソヨに襲い掛かった。ソヨは力の限り抵抗した。
意外にもソヨの力が思いのほか強かったのと、村を救ったと思われている男は村人たちからの歓待を受ける約束があったので一旦ソヨを掴んでいる手を離した。
「まぁ、いいさ。これから時間はたっぷりあるんだ。おまえ、俺が帰って来るまでにここの掃除と食事の準備をしておけよ!」
男はそういうと社を出て行き、舟を漕いで陸地へ向かった。
ソヨは逃げようにも舟は残っていない。一度足を踏み入れると何者をも飲み込んでしまうという底なしの沼を泳いで岸まで渡る自信も無い。ソヨは途方に暮れた。