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ソヨの出自は謎に秘められている。
その頃、村一番の美人のおタカには、村の長の息子、太郎との縁談が持ち掛けられていた。長は有力者の娘と結婚させたがっていたが、太郎がおタカに惚れ込んで、彼女以外との結婚は断固として拒み、とうとう縁談へとこじつけた。
ある日、おタカと太郎は立ち入ることが禁止されているクチナシ沼へ行った。そこはバケモノが住むと言われ、祟りがあると言われている場所だ。
「やっぱりよそうよ、太郎ちゃん。祟りがあったら…。」
おタカは震えた。
「大丈夫だって! バケモノなんて見た奴いないし、きっと迷信だ! 俺たちが証人になってやろうぜ!」
太郎は勇ましそうにそう言って、おタカの手をグイと引っ張った。
沼の真ん中に浮かぶ小島には社がある。毎年捧げものをする為に島へ渡る時に使う小舟が一艘、岸に結ばれていた。太郎は木の杭に巻き付けられている紐を外すと、小島へ向かって舟を漕いだ。
「美しい島だなぁ。こんな綺麗なところ、いもしないバケモノに占領されてたまるかっての!」
太郎は笑いながら言った。
おタカは辺りを警戒しながら太郎に引っ張られて歩いた。空は晴れ渡り、雲一つない。確かに太郎の言う通り、恐ろしいことなど一つも浮かんでこないような美しい景色だ。
二人が島へ一歩足を踏み入れると、急に雲行きが怪しくなった。晴れ渡った空は急にどす黒い雲に覆われ、冷たい強風と共に雨が降り出した。
「…太郎さん…やっぱり帰った方がいいんじゃない?」
おタカは言った。
「な…なに…きっと通り雨だろ。すぐに止むさ。」
太郎は苦笑いした。
その時、突然ドシンと大地が震えた。
「ひぇぇぇぇぇー!」
太郎はあろうことか、おタカの手を振り払うと、一目散に来た道を駆け戻って言った。
「待って! 太郎さん!」
手を思いっきり振り払われた弾みでおタカは転んだ。その時、またドシンと大きな地響きがした。何かとてつもなく大きなものの足音のようだ。おタカは恐怖のあまり、その場から動けなくなった。
ドシン
ドシン
ドシン
足音はさらに大きくなる。何かがおタカの方へ向かってきているのは明らかだった。
―助けて
おタカは声にならない悲鳴をあげた。
ドシン
足音はおタカのすぐ背後で止まった。
おタカは恐怖のあまり気を失った。