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今回でシリーズ2、最終回です。
「直哉!」
「父さん!」
月代たちが帰った後、現場に来ていた直哉の父・恭介が三人に気付いて駆け寄って来た。
「今から例の祠を撤去するんだ。君たちも見ていくかい?」
三人は顔を見合わせて、恭介に向かって頷いた。
祠の前にたくさんの椅子が並べられて簡易的な会場になっていた。祠の前は祭壇が作られていて、名のある神社の神主がお祓いに来ていた。
「湊君、黎明学院合格おめでとう! これからも直哉をよろしくね。えっと…そちらのお嬢さんは同級生かな?」
「初めまして。佐竹薫子です。私も黎明です。岩国君と同じクラスです。」
「あぁ、そうなの。よろしくね。」
恭介は笑顔で言った。
「おじさん、これが終わったらドイツですか?」
湊が恭介に聞いた。
「あぁ、ドイツ行きはとりあえず無しになったんだ。僕の代わりに同僚が行ってくれたんだよ。」
恭介が言った。
―え? ドイツ行き? …玖珂さん!!!
「もしかして、うちの父と同じ会社の玖珂さんなんですか? 父は同僚が行けなくなった代わりに自分がドイツに行くことになったって言ってました!」
薫子は恭介に言った。
「え? そう言えば君、佐竹…さんって言ったよね…。もしかして君のお父さん、佐竹義孝さん?」
「はい、そうです!」
「そうかぁ~! 君が!」
恭介は驚きながらニヤニヤして薫子を眺めた。
「君が目に入れても痛くないほど可愛いがられている薫子ちゃんだったんだね。」
恭介は義孝との会話に思いを馳せた。
「父がそんなこと言ってたんですか? はずっ。」
薫子は真っ赤になった。
「そりゃルコは目に入れても痛いわけ無いよなぁ~。」
湊はニヤニヤしながら薫子を見た。
―おのれ…岩国…
薫子はいつかこの男に復讐してやろうと固く心に誓った。
三人が席に着いてしばらくするとお祓いが始まった。直哉はじっと祠を眺めた。直哉の脳裏にソヨとの思い出が走馬灯のように駆け巡った。
*****
直哉は娘の震える手を両手でギュっと握って温めてやった。
うわぁ~ん!
娘は感極まったのか、その時初めて声をあげて泣いた。娘は美しい顔をしかめてボロボロと泣いた。涙が止まらなくなってしまった。直哉はどうしていいのか分からず狼狽えた。
「大丈夫! 俺がなんとかするから!」
直哉は娘をギュっと抱きしめ、頭を撫でてやった。
「…あんた、名前は?」
直哉は聞いた。
「…ソヨ。」
娘は鼻をグズグズ鳴らしながら言った。
「ソヨか…可愛い名前だな。俺は直哉。」
「…なお…や…? 変な名前…。」
ソヨは少し笑った。
*****
神主による祝詞は続いていた。以前来た時のあの何とも知れない嫌な雰囲気は全く感じられず、月白の言った通り、この祠にはもう既に何の祟りも残っていない事は、三人にとって火を見るより明らかだった。
*****
「…カップ…ラーメン?」
ソヨは首を傾げた。
「こんなすごい料理、あいつに食わせんの癪だな…。」
悔しそうに言う直哉をソヨはジッと見つめると、スッとその場を立ち、台所から料理の入ったお皿を持って来た。
「これ…直哉の分。お口に合うか分からないけど…。」
ソヨは恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。直哉はそれを見て顔がパーっと明るくなった。
「お口に合うも何も絶対旨いに決まってる!」
直哉は嬉しそうにソヨの作った料理を完食した。
「うまっ! 今まで食べたどの料理より上手いよ!」
直哉は満面の笑みで言った。
「…人に…喜んでもらうって…こんなに嬉しいんだね…。」
ソヨの目には涙が浮かんでいた。そしてその涙は止めどなく溢れていった。
「えっ、ちょっと待って…何で泣くの? ねぇ、お願いだから泣かないで。」
直哉はどうしたらいいのか分からず慌てた。
「ごめんなさい。私、人から親切にされたことがあまり無くて…。村の人達は私に寄りつこうともしないから…その…気にしないで下さい。」
ソヨは涙を拭いながら言った。
*****
神主は大麻を大きく振った。恭介を始め、社員たちは真剣に祈っていた。この案件の為に多くの者が犠牲になったのだ。その物たちの為にも皆真剣に祈りをささげた。
*****
「私ね…嬉しかった。直哉が私の作った料理を美味しいって言ってくれて。この見た目を気持ち悪がらないでくれたのも、直哉が初めてだったよ。」
ソヨは直哉に笑顔を向けた。
「ソヨ…なに言ってんだよ…」
「だから…私、本当に幸せなの。直哉に会えて、本当に幸せ。」
「ソヨ…だからなに言ってんだ…そんなこと言ったら俺の前から消えようとしてるみたいだろ? ソヨは生きるんだよ。これからもっと幸せな人生が待ってるんだから!」
直哉が震えながらソヨの手を取った。
…大好き…
ソヨは直哉をギュっと抱きしめ唇にそっとキスした。ソヨの目に大粒の涙が浮かんだ。
*****
お祓いの儀式は無事に終わり、会場の片づけが終わると重機が入ってきた。今度は何事も無く祠の撤去作業が進んだ。無事、祠が撤去されると、涙する社員たちもいた。
直哉はふと空を見上げた。するとソヨの姿が浮かんだ。彼の目にだけその姿が見えた。直哉はソヨの方へ駆け寄った。
「直哉~! 本当にありがと~! 私、幸せだったよ~! 一つだけお願いがあるの~!」
空の上のソヨは涙をポロポロ流しながら笑顔で叫んだ。
「ソヨ…。」
直哉は呟いた。
「私の事は忘れて、直哉は自分の人生、思いっきり生きて欲しい!」
そしてソヨの幻は消えた。
直哉はその場にうずくまった。湊と薫子が直哉の元に駆け寄った。
…ウッウッウッ…
直哉は肩を震わせて泣いた。
「直哉…。」
湊はかける言葉を失った。薫子は直哉の側に寄り添い背中をさすったが、直哉の涙は止まらなかった。
「…忘れるなんて…出来るわけないだろ…。」
直哉は土を握りしめた。
空はどこまでも青く澄み渡り、美しい空気に包まれていた。ここがかつて祟られた土地だったとは信じられないほど。それも一人の哀れな美しい少女の犠牲の上に成り立っている事は、直哉たち三人以外、誰一人知る由も無かった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
シリーズ3でまたお会いしましょう(n*´ω`*n)




