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 その昔、正寿の村は長い間、日照りに見舞われた。田畑は干からび、餓死する者が大勢いた。そこに疫病が蔓延し、村は壊滅状態に瀕していた。


 村の長は、危機を救う為、雨乞いの儀式を毎日のように行ったが効き目は全くなかった。その時、ある修行僧がその村を訪れた。修行僧はこの状況を憐れんで村の長に言った。


「…沼の主が怒っておられる。」


「…沼の主…それはもしかして…。」

村の長はすぐさまこの村の外れのクチナシ沼のことだと思った。


―この沼の事は門外不出。よそ者は知らない筈だ。それを見通されるとは、このお坊様はたいした神通力をお持ちだ!

村の長は思った。


―しめしめ…。この村のことをあらかじめ入念に調べておいて良かったわい。こいつら簡単に俺の事を信じておる。これを利用してここでいい暮らしをしてやるぞ。


 修行僧とは真っ赤な嘘。この男は余所の村の極悪人で、死刑にされるところを修行僧に化けて逃げてきたのであった。


「この村では代々、沼の主に捧げものをしてきたのではないか?」

修行僧は言った。


「は、はい。毎年欠かさず奉納しております。」


「…この村はこの土地の神にとても愛されていた。だから供物の奉納だけで済んでいたのだ。しかしあなた方はそのありがたみを軽んじておられたのではないか? 土地の恵みを受けるだけで、感謝の心を忘れていたので神々はお怒りになっておる。これはもはや我々の祈りだけではどうしようもない。この村の娘を捧げて神に許しを請うしかない。」

修行僧は神妙な顔で言った。


「確かに大昔は人身御供を捧げていたとの言い伝えがあるな…。」


「そう…確か二人で渡って…どうとか…」


「それだ。昔、村の長老が言っていたぞ。」

村人たちはざわめいた。


「ど…どうすればよいのでしょうか?」

村の長は修行僧にすがるように尋ねた。


「…それは…」


 村で一番の美しい未婚の娘を神に差し出すのだ



「村一番の美人と言えば…長のとこのおよしちゃんじゃねーか?」

一人が呟いた。


「そうだよな。あの子しかいない。」

他の者も次々と呟きだした。


それを聞いた長は焦った。

―とんでもねえ! うちの大事なお芳を生贄いけにえになんてさせるわけにはいかない!


 長は急いで家に帰ると、娘の芳に言った。

「すぐに婚姻するんだ。あぁ、相手は誰だっていい。そうだちょうど隣村の長の息子がまだ嫁をめとっていない。すぐに話をまとめよう。」


「お父さま! そんな急な事を言われても…」

お芳は狼狽うろたえた。


「あなた、どうしたんですか!」

側にいた妻も夫の尋常じゃない様子に驚いた。


「それはな…」

長は娘と妻に一部始終を話した。それを聞いて二人は青ざめて震えた。


「すぐに式をあげましょう! 今からでも!」

なんとその晩のうちに一家は隣村へ押しかけ、強引に式を挙げさせた。


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