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「何なの、これ? 怖い~!」
薫子は耳を押えた。
「この村の昔からの言い伝えだよ。あの小島には荒ぶる神が住んでいて、村を守る代わりに生贄を差し出していたんだ。小舟で生贄を連れて行き、帰りはその人を置いて一人で帰る。そういうことなんだろう。」
湊は呟いた。
「じゃあ、生贄を捧げない限り主さまは鎮まらないってこと?」
薫子は半狂乱に叫んだ。
「こいつをやればいい!」
直哉が罪人を指さした。
その時、罪人が目を覚ました。周りの異様な状況に、罪人は自分の置かれている立場を瞬時に悟った。
― まずい、逃げなければ!
罪人は小舟から飛び降りて一目散に駆けだした。しかし集まっていた村人たちにすぐさま捕らえられた。
「や、や、やめてくれ~! 話せばわかる! お願いだ~!」
罪人は喚き散らしたが村人たちからは聞き入れられるはずも無かった。
「主さま、今から生贄を捧げます。どうかお鎮まり下さいませ!」
村人たちは罪人を沼に放り投げた。
ドシン
主さまの歩みが止まり、沼で溺れそうになっている罪人を大きな手が掴んだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁー!」
罪人は悲鳴をあげた。
主さまは罪人を高く掴み上げたかと思うと
オォォォォォォォ
と咆哮を上げ、罪人を遥か遠くの山の向こうまで投げ飛ばした。主さまの体は波打ち、怒りに震えているようだった。
「やはり生贄は汚れた人間ではダメなんだ…」
村人たちは口々に呟きおののいた。
グァァァァァァァァァァ
主さまの咆哮と共に、村はクチナシ沼を中心にアリ地獄のように地盤沈下し始めた。みな一目散に逃げたが力尽きて吸い込まれていく者もいた。
「あそこに神社がある! あそこへ行こう!」
湊が神社の方向を指さした。
― 見たところ、お稲荷さんだ。きっと月白と繋がれる!
「おまえ、こんなときになに腰抜かしてんだよ! へっぽこすぎるぞ、ルコ!」
パニック状態になってワナワナしている薫子を湊はおぶって神社へ向かった。
「ソヨ!」
直哉もソヨの手を取り神社へ向かおうとした。しかし、ソヨは直哉の手を放し、その場に立ち止まった。
「ソヨ! どうしたの? 歩けないなら俺がおぶってやる!」
直哉はそう言ったが、ソヨは首を横に振った。
「生贄が…いる…」
ソヨは呟いた。
「何言ってんだよ!」
直哉はソヨの肩を掴んで叫んだ。
「俺たちやっとの思いで逃げて来たんじゃないか! 大丈夫だから、俺を信じて!」
直哉の言葉にソヨは目を潤ませた。
「俺たちの世界に一緒に行こう!」
「で…でも!」
「大丈夫! 俺が絶対何とかしてみせるから!」
直哉は無理やりソヨの手を取って神社へと走った。四人はやっとの思いで神社へ辿り着いた。




