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「岩国君! 玖珂君! こっち!」

薫子は二人に向かって手を振った。


 ソヨは直哉の無事な姿を見ると駆け出した。

「直哉…ウッ…ウッ…ウッ…。」

ソヨは直哉に抱き着いてしゃくり上げるように泣いた。


「大丈夫だって、俺言ったろ?」

直哉はソヨをギュっと抱きしめて頭を撫でた。


 二人の様子を見た湊は恥ずかしくなったのか頭を掻きながら目を泳がせた。


 ブハッ


 そんな湊の姿が面白すぎて薫子は思わず吹き出してしまった。すると湊は薫子に絶対零度の視線を送り、薫子の背筋は凍り付いた。


「はやくこの島から立ち去ろう。」

湊は言った。


「あいつも連れてくの?」

薫子は上半身縄でぐるぐるに巻かれた罪人を指さした。


「あいつの正体をみんなにバラすんだ。そうしないとソヨが村へ戻った後、暮らしにくいだろうから。」

直哉は言った。


―玖珂君…そこまで考えてあげてるなんて…これはそうとうソヨさんに惚れ込んでるな…


 暗闇の中にいても輝いているような美しいソヨと、タイプは違うけど岩国君並みのイケメンの玖珂君の世にも美しい組み合わせ


―これはリアルプリンセスストーリーじゃない!

薫子は妄想を膨らませ、ウットリと眺めた。


「ニタニタすんな、気色悪い。」

湊が薫子に吐き捨てた。


―まったくなんでこいつはいつも私の夢を覚まさせるんだよ…

薫子は鼻を膨らませて湊を睨んだ。





 皆を乗せ、直哉は舟を漕いだ。思いのほか陸までは遠いが、もう少しでたどり着けそうだ。その時、凄まじい閃光が放たれた。あまりの眩しさに、一瞬何も見えなくなるほどだった。そしてその閃光とほぼ同時に、大地が割れるほどの轟音が響き渡った。


「何なんだ!」

小さな小舟は揺れ、皆、落ちないように舟にしがみついた。


「もう岸はすぐそこだ! 急ごう!」

直哉は必死に舟を漕ぎ、皆も手で水をかいた。


 ドシン

 ドシン


 想像も出来ないような大きな者の足跡が聞こえる。そしてそれはどんどん近づいてきた。


「何なの、この音?」

薫子は恐怖でパニックになりそうになった。


「…主さま。」

ソヨが震えながら呟いた。


「主さまって…あの言い伝え、本当だったの?」

直哉が言った。


 ドシン

 ドシン


 足音はさらに大きくなった。もうすぐそこまで来ている。


「大丈夫だ! ほら、もう岸に着くぞ! 女の子たちから先に降りて!」

直哉は叫んだ。


 轟音で目が覚めたのか夜明け前だというのに岸には村人が集まっていた。


 主さまだ…

 主さまが目覚めてしまった

 何故?


 ソヨを生贄にして修験者さまが鎮めてくれたんじゃなかったのか?


 人々は恐れおののきながら口々に呟いた。


「こいつは修験者なんかじゃありません。遠くの村で犯罪を起こした罪人です! あんたたちは騙されてたんだ!」

直哉が叫ぶと村人たちは驚愕した。


 しかしそのことをとやかく考える暇を与えないかの如く、主さまはもうすぐそこまで迫ってきた。



  二人で渡り、一人で帰る

  けして共に 帰るでないぞ



 村人は昔からの言い伝えを思い出し、一人が呟くと、連鎖されたようにまた一人、また一人と呟きだして、最後には大合唱になった。




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