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「キツネの世界だってほんとに大変だったのに、また今度は全く違う世界に行くなんて自殺行為じゃないの! 私たちには無理だって! 月白さんに行ってもらえばいいじゃん!」
「それがそう簡単じゃないみたいなんだよ。とりあえず月白から話を聞いてみよう。」
私たちは岩国君が最初にキツネの世界へ迷い込んだ社がある本屋に着いた。
「ほんとにここなの? 緑は多いけど都会のど真ん中じゃない。」
そこはお洒落な人達が集まる都会のオアシスだった。
「俺も最初はビックリしたよ。だけどほら!」
岩国君が指さした先には小さな森のようになっている場所があり、その中には本当に小さな社があった。
「ほんとだ…。でも何で!? こんなの今まで全く気付かなかった。多分、他の人たちも気付いてないよ。」
樹々の隙間から覗いてみると、こっちを気にしている人は全くいない。それどころか、この小さな森の姿が見えていないようだ。
「この社に気が付く者は滅多にいないよ。特別な磁場になっているんだ。」
いつの間にか後ろに月白が立っていた。
「ここは呼ばれた者しか来れない。」
月白は言った。
「俺、呼ばれた訳だ…。」
岩国君が皮肉じみて呟いた。
「まあまあ、そんなに怒んないで! 霞も君たちに会いたがっているから、とりあえず私の屋敷に行こう。」
月白は薫子と湊の肩を抱いて社の中へ入って行った。
「またあんたたち? ほんっと暇を持て余してんのね。」
藤の霞は優雅に扇子を仰ぎながら私たちに言った。
「あの人…ほんとに私たちに会いたがってるの?」
私は月白に囁いた。
「彼女は恥ずかしがり屋だからね。言ってる事は本心じゃないんだ。ハハハ…」
月代は苦笑いした。
―恋は盲目と言うけど、あれをどう見たら私たちに会いたがってるように見えるんだろ…
薫子は冷めた目で月白を見た。
ウッカリ霞に見惚れていた月白は我に帰り、咳払いして言った。
「では、本題に入ろう…」




