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「で? あんたの親友の玖珂君もあっちの世界に行ってるってこと?」
薫子は岩国湊に言った。
「それがどうもあの世界とはまた違うらしいんだよ…。」
岩国は頬杖をついて思いを巡らしている。
「どんだけ世界があんのよ…。」
薫子はウンザリして呟いた。
「とにかくさ、月白が俺たちに会いたいって言ってるんだ。」
「ハァ? ちょ、ちょっと待って! 私たち、あっちの世界で散々怖い目にあったよね! またあそこに行くつもり? 冗談じゃない! 私は遠慮させていただきます。どうぞ岩国君お一人でどうぞ。」
薫子は深々と頭を下げその場を去ろうとした。
「ルコ! ちょっと待て!」
岩国君は薫子の腕を掴んだ。放課後の渡り廊下に岩国の声が響いた。
学園一のイケメンから腕を掴まれた薫子を他の女生徒は冷めた目で睨んだ。中にはヒソヒソ話をしているものもいる。
「ああああ…分かったから腕を離してっ!」
岩国はニヤリとして掴んだ手を離した。
薫子は自分の背中に突き刺さる女生徒たちの冷たい眼差しに身震いした。
“株価大暴落”
“大規模地盤沈下”
駅前の電光掲示板に不吉なニュースが続々と流れてくる。
「待って、岩国君! どこに行くの?」
岩国君はさっさと改札を通って行く。薫子は急いでカバンからスマホを取り出し改札機にかざした。
「どこって、本屋だよ。俺が初めて月白に会った。」
「本屋で会ったの?」
―なんか昔の少女漫画の出会いみたいじゃん…
薫子の頭の中で月白と岩国のBLストーリーが完結した。
「またおまえ変なこと考えてるよね…。」
岩国君はウンザリした顔で薫子を見た。
春の日差しを浴びながら電車は走る。桜はとうに散り、新緑が目に眩しい。幸せを絵にかいたような景色。一連の不吉なニュースなんて、まるで別世界の事のようだ。
「玖珂君ってさ、もしかして受験の時、岩国君と一緒にいた人?」
「さすがストーカーだな! 直哉のことも知ってたのか!」
―失礼すぎる…この男…
さっきからずっと車内の女の目線にウンザリしていたのに、岩国君のこの一言で私は完全に戦意喪失した。
「直哉も俺と同じ時くらいに別の世界に紛れ込んでしまったみたいなんだ…。」
「それを私たちで探しに行くってこと?」
「その通り!」
―嫌な予感的中…




