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岩国君と玖珂君、シリーズ第二章の始まりです。
二人で渡り、一人で帰る
けして共に 帰るでないぞ
「玖珂さん、ドイツ行き、いつでしたっけ?」
「4月に入ってすぐだよ。」
「すぐじゃないですか!」
「そうだな…。まぁ、それまでにここの仕事のめどをある程度つけないとな…。」
「そうですよね…でも…この案件、厄介過ぎですよね。もうすぐ海外に行かなきゃいけない人がするような事じゃ無いのに…だいたいうちの会社、人使い荒すぎなんですよ!」
「ま、そうは言っても雇われている身としてはしょうがないさ。」
玖珂恭介は大手総合商社で不動産開発を手掛けているベテラン社員だ。この道はや20年を超える彼でも、たまに厄介だと思う仕事が舞い込んで来る。
いわくつきの土地
海外駐在になる彼にとって、日本での最後の案件がそうだった。そこは若い世代に大人気の街の正寿駅からすぐの広大な土地で、今まで手を付けられなかったのが不思議なほどの好立地だった。
もちろん、過去さまざまな会社がその土地を譲って欲しいと交渉してきたが、その広大な土地を所有していた地主は、
「ここは先祖代々守ってきた神さまの土地だ! 誰にも譲りはしない!」
と、頑にその申し出を断っていた。
しかしその地主は先頃亡くなり、代替わりした息子は先祖代々の言い伝えを無視するように、自らその土地を手放した。
そして玖珂の会社がその土地を手に入れた。そこにタワーマンションを三棟と複合商業施設を建てる予定だ。しかし…
「何!? またか!」
玖珂の元にまた作業中の事故の連絡が入った。
その土地にあった元地主の家屋は既に撤去されていて、屋敷を囲む広大な森の樹々も切り倒されていた。残るはちょうど土地の真ん中にある社と、それを守るように囲んで生えてある林だ。
祠はお祓いを済ませたのだが、作業に入る業者の従業員が立て続けに病に倒れ、作業中に深刻な事故を起こした。
「もうこの工事を請け負ってくれる業者はいませんよ。」
玖珂の部下は頭を抱えて呟いた。
「…やっぱり…祟りがあるっていうのは本当だったんですね…。」
部下たちは口々に呟いた。
「おいおい、おまえたちまで何言ってんだよ。祟りなんてある訳無いだろ! きっと何か別の問題があるはずだ。もしかすると何か有害な物質でも出ているのかもしれない。調査をしてみる必要があるな。」
いつどのような時もあらゆる問題も解決してきた玖珂は、今回もどこかに解決の糸口があると信じて疑わなかった。この土地の事を調べていた部下が気になる資料を持って来た。そこにはこんなことが書かれてあった。
その昔、天変地異を鎮めるために…………この祠に危害を加えるものには必ず祟りがある。
―祟り…そんなものある訳無いじゃないか…
玖珂は祠をじっと見つめた。すると祠の中から黒い霧のような物が出てきた。
「な…なんだ?」
玖珂は意識を失った。