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光芒へのリフレイン  作者: 羽元樹
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帰巣派

 草原は夕日で赤く染まっている。

 草原以外には一軒家がぽつんと建っていた。遠くに朽ちた古城も見えるが、今から移動するには不安がある。

 馬車は、その一軒家に荷物を下ろすのも目的だったようで、手綱を握っていた男はいそいそと荷を馬車から降ろしていた。

「やぁ、私も手伝おう」

 東雲さんが颯爽と現れ、一緒に荷を下ろし始めた。非力な僕の出番などない。

 しかたないので、一軒家の前に立つ。

 一軒家というより屋敷に近い。二階建てで、大きな窓から中の様子を覗くと一階は酒場と食堂なっているようだ。ファンタジーお約束の二階は宿となっているのだろう。

 ただ、蛍光灯で照らされた室内はファンタジーのソレに比べるととても明るく現代的だ。酒場には5人ほどの姿があり、美味しそうにお酒をあおっている。

「蓮華さんは、お酒好きなのです?」

「いえ、まだ嗜んだことはないですね。もっとも、この体では尚更吞めませんけどね」

「そうですか。私も興味はあるんですけど、勇気がなくて」

 僕は後方から紡がれる声の主へ振り返る。

 白かった。

 真っ白の長い髪、真っ白の肌、血の色をした紅い瞳、青い縁取りをされた白い服装はミッション系の女子高生のようだ。

「アルフィナさんの…?」

「はい。ルーネシア・フォトンと申します。とりあえず、皆さまは中に入られたほうがよろしいですよ」

 僕は無言で首を傾げる。

「あちらを」

 彼女が右手で差した方を見ると、小さな丘に不自然に強固な鉄ごしらえの扉が見えた。

「稀にあの扉から中のモンスターが出てくることがあるんですよ。この屋敷には下級モンスターは近づけない魔法を施してあるので安心なのです」

 竜人ということだが、見た目は人間と大差がないようだ。勝手に竜の角と尻尾が生えていると思い込んでおり、少し残念な気持ちもある。

「では、草原にモンスターは出ないのです?」

「出ますが、特筆すべきモンスターはいませんね。レッドホーンぐらいでしょうか」

 ルーネシアさんは人差し指を立てた両手を頭に添えて角に見立てる。

「レッドホーンは、初心者の力試しの対象となっているモンスターですよ」

 にこっと笑いながら、簡易の角は手に戻る。

「詳しくお話を聞かせていただいてもよろしいですか?」

 ちらっと僕の『フレンド』たちに視線を送る。

 みんなは、馬車の荷下ろしを手伝った後、店主と会話を楽しんでいるようだった。

 それを確認したルーネシアさんは右手の人差し指を振ると、僕たちの周囲が一瞬虹色に包まれる。

「失礼しますね」といって、しゃがんだルーネシアさんの綺麗な顔が僕の目線に降りてきた。

「システムメッセージでは危険とのことだったので、音遮断の魔法をかけました。こちらの音は洩れませんから安心してお話してくださいね」

「システムメッセージって、ステータスのメニューから送るヤツですよね?」

 ふふっと笑い、僕の言葉を否定する。

「ステータス…?あぁ、なんでもゲームのメニューに似ているそうですね。どちらかというとスマホに近いらしいですよ?」

「こうレベルとか、数値とか...?」

「人間界って、レベルがあるんです?」

 ないです、と答えると「でしょ?」と笑う。

「まぁ、魔法とか技とかあるんですけどね。アニメっぽいです。システムメッセージはハッキングされますからね、内緒話は会って話すに越したことはないんです」

 なんか急にリアルな話になったな。

 あの詩乃さんの警戒具合を考えると、おそらく僕が思うよりかなり危険な内容なのだろう。それを踏まえて簡潔に説明を行った。

 事は重要なことなのだろう。少しの逡巡がこの場を支配する。

 その場を破壊したのは、ルーネシアさんの言葉ではない。


 甲高い金属音だ。


「っつ!ウォードン!?気でも狂ったか!?」

 音の主を確認。筋肉質の小柄な男性が振り下ろしたであろう斧を浅黒い肌の青年が大剣で受けていた。

「気でも狂った?私は正常だよ。アルコードの後ろにいるのはワルキューレだろう?」

「それがどうした!?」

「ワルキューレは敵だ!」

 すっとルーネシアさんは右手を下へ下げる動作をすると、僕たちを囲っていた虹の壁が霧散する。

 すっとルーネシアさんは僕をウォードンの視界から自分の身体を割り込ませて隠す。

「…組織?」

「いえ、これは別件です」

 僕の言葉にルーネシアは首を小さく振った。

 騒ぎを聞きたてたのか、店主と『フレンド』たち。そして見知らぬ人物が三人姿を現す。

「どうかしたの!?」

 青いローブに身を包んだ温厚そうな金髪の長い髪のエルフの女性が斧を握るウォードンに声をかける。

「ワルキューレだ…」

 そう呟いてウォードンは斧を握る手に力を入れる。

「ワルキューレがどうしたって言うんだ!?」

 大剣の青年も負けじと力を入れる。そのさい漆黒の翼が大きく広がる。

「そう。ワルキューレがいるとせっかくの食事も不味くなるわ。部屋に戻りましょう」

 ぽんっとエルフがウォードンの肩を叩くと渋々ではあるが、斧を下ろした。

「このパーティは解散だ。ワルキューレ、私がお前たちの首を狙っていることを努々忘れぬことだ」

 ウォードンとエルフは一軒家の中へと姿を消した。

「すまなかったな、俺は魔族のアルコードだ。怪我はないか?」

 アルコードは翼を収容し、僕の頭に手を乗せた。

「いえ、助けていただきありがとうございます」

 小さく頭を下げると、屈託なく笑みを浮かべる。

「まさかウォードンとエオルナが帰巣派だったとはな」

 リーダー格であろう少し青みかかった肌の青い長い髪の女性が嘆息する。

「もう日も暮れます。中の方に入りましょう」

 店主に促され、僕たち9人は家の中へと向かう。


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