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光芒へのリフレイン  作者: 羽元樹
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ワルキューレの王様

 青いワンピースの下にボクサーパンツを履き、白いズボン、黒いロングTシャツ。…青いワンピースを脱いでも良さそうな服装なのだが、アルフィナさんも宗也さんも頑なに拒否した。リュックの中には青いワンピースの予備があと2着入っている。

「そういえば、蓮華くんはこれからどうするか考えてるの?」

 アルフィナさんに問われ、小首を傾げる。

「王の素質というスキルがあるのですが…どうしましょうかね」

 国を興せみたいなことをアマテラスさまはおっしゃってたけど。

「ワルキューレで初めてじゃないかしら?」

「そうだね。あまり口外しないほうがいいかも知れないな」

 アルフィナさんと詩乃さんの表情が険しい。

「考えてもみよ。エルフやドワーフ、竜人など妖精や亜人が国を支配している。ワルキューレにはまだその門扉は開かれにくい状況にある。そこでワルキューレで王の素質を持つ者が現れれば、ワルキューレ支配の世界の構築のために国を興し、他国を侵略しようと考えるのではないだろうか?」

 それは、いやだなぁ。

「あの、みなさんを信用して話すのですが『蘇りのアイテムを探す組織』と」

 ばっと詩乃さんが僕の口を手で塞ぐ。

「もう少し声を落とせ。手の者がどこに潜んでいるのかわからん」

「!!!!!!」

 近い近い近い!胸胸胸!

 ぱっと手を放し、4人は顔を寄せる。

 近いんだよ、本当に...。

「その力に対抗するために国を興せというわけか」

「急いではないということでした」

「明王さまもそのアイテムの存在を否定してたよねぇ」

 詩乃さんが難しそうな表情を浮かべている。

「明王さまの耳に入れる話があるって言っていただろう。実はだな、その『組織』が竜人の国のひとつ『アガライド』と手を結び、セントラルに刃を向けるという噂があるんだ」

「まだ噂段階なんだけどね」

「疑惑の段階であれ、早めに耳に入れておいたほうが良いだろう」

 詩乃さんの言葉にアルフィナさんの長い耳が垂れる。

「あの『アガライド』の代表のオーデルって、顔も凛々しく演説もお上手で国民からも人気があるじゃない?」

「パフォーマンスが天才的なんだ。おそらくだが、私利私欲のために国民を売ることができる人物だと私は思う。蓮華と正反対で信頼おけぬ存在だ」

 思う、と言っているが確信めいたモノを詩乃さんは抱いているようだった。

 少し逡巡した詩乃さんは、僕へまっすぐ視線を向ける。

「ここから東に廃城がある。そこを拠点に冒険なりして自分磨きに勤しむべきだ。王の資質があれば、城の機能は起動すると思う。だが、亜人か妖精の味方が欲しいな」

「え、なんで?」と傾げる柊さん。

「フェイクだよ。その亜人を王に見立てるんだ。そうすれば、蓮華が王だなんて思わないだろう?『ワルキューレは王にはなれない』という固定概念を利用させてもらおう」

 詩乃さんの視線は僕からアルフィナさんに向かう。

「で、だ。手ごろの妖精や亜人の知り合いはいないだろうか?」

 アルフィナさんは眉を顰める。

「ん~…妹がいるんだけど。ダメだなぁ、あの子は使えない。バカすぎる」

 優しそうなアルフィナさんに『バカ』よばわりされる妹さんって…。

「あぁ、竜人でも大丈夫?」

「アガライドとの関係は?」

「ないわ。ヴィオルシア出身だから。廃城の近くのエルアイナ草原のあたりを縄張りにしてるから。ここから馬で半日くらいかな?私の名前を出してくれれば嫌な顔はしないと思うわ。一応、フレンドリストから連絡しておくわ。電波届けばいいけれど」

「よろしく頼む。ん?」

 詩乃さんを柊さんがニヤニヤと見ている。

「詩乃ちゃん、楽しそうだねぇ」

「私も世界を手に入れようと野望を持っていたんだよ」

 にこっと無垢な笑みを浮かべる。

 だが、それも数秒だ。

「…私は多くの命を奪ってしまった。贖罪といえば聞こえはいいが、私はまだ手を血に染める覚悟ができない。申し訳ないが、私は蓮華についていけない」

「ん。構わないですよ。いっしょに考えてくださっただけでありがたいです」

 詩乃さんに笑顔を向けると、ふいに詩乃さんは僕を抱きしめた。

 強く、強く。

「ごめんね。私、本当にか弱い女の子になっちゃったみたいだ」

 胸に埋もれる僕だが、僕を抱きしめる腕は細くか弱い女の子の腕だった。

「僕や柊さんみたいな、男の出番なんですよ、きっと」

 僕は手を伸ばし詩乃さんの頭を撫でる事しかできなかった。

「ところでさ、なんで詩乃ちゃんは『詩乃さん』って呼んで、ボクは『柊さん』なんだい?宗也って呼んで欲しい」

 振り返れば、不満そうな表情を浮かべている宗也さんがいた。


 馬車の荷台に揺られながら僕は4人に増えたフレンド一覧を眺める。

 天照大御神、柊宗也、有野詩乃、アルフィナ・エーデル。

 んふふ。

「どうしたの?フレンド一覧?」

 隣に座る宗也さんが声をかけてくれる。

「はい。生前は友達いなくって…あぁ、生前の話はマナー違反でしたね。すみません」

「まぁ、気を付けておいたほうがいいかもね。詩乃ちゃんみたいな『英雄』だとなおさらだと思うけど。ちなみにボクはお友達いっぱいいたよ」

 スゴイ自慢げだ。

「詩乃さんって、英雄なんです?」

「いや、わからないよ。でも、見たでしょ?あの頭の良さ」

「あぁ、なんか納得しますね。僕でも知ってる人だったりして」

「かの赤い彗星だったりしてね」

 ケラケラと笑う宗也さん。同じくらいの時代を生きた人みたいだな。と思うが詮索はやめておこう。

 あの後僕たちは二人に別れを告げ、東の草原へと行く乗り合い馬車に乗り込んだ。

 東の草原には地下へ延びるダンジョンがあるらしく力試しをするワルキューレたちに需要がある場所らしい。宿屋などもあるそうで、今晩はその宿で休む予定だ。

 2頭立ての馬車の荷台は8人ほどが乗れる席が設けられており、僕たち以外にも3人の姿があった。

 男性一人、女性二人。それぞれ仲間ではないようで、距離をおいて座っている。

「君たちも、ダンジョンに挑むのかい?」

 突如、後ろから男性に声をかけられた。

 振り返ると日に焼けて少し肌が焼けているがその顔立ちは整っており、品もある。黒い短髪が凛々しさを際立たせており、体も筋肉で覆われている。

 パッと見、『こわっ』と思う姿だが、その屈託のない表情が人懐っこさを滲みだしている。

「あの、えっと」

「ボクたちが挑めると思います?」

 言い淀む僕と相対し、笑顔で対応する宗也さん。

「難しいだろうね。だからこそ、ダンジョンしかない草原に二人が何の用があるのかなって」

「ねぇ、それってプライバシーの侵害じゃない?」

 男性を諫める豪奢な金髪の女性。

「違うんだよ。よければ、私と一緒にダンジョンに行ってみないかい?」

「え?いいんですか?」

 意外に宗也さんは乗り気のようだ。

「あの、僕たち、人を訪ねる予定がありまして」

「じゃあ、その人が良いって言えば、一緒に行こうか?」

 どうやら、僕たちにダンジョンを経験させてあげたいようだ。

「でしたら、わたくしも一緒に参ります。見れば、まだこちらに来て日も浅いようにお見受けしますし」

 物静かな感じのする紫色の髪の女性が小さく手を上げる。

「え?じゃあ、私もついていくわ。あなたたちだけでは心配だし」

「あら、ありがとうございます」

 僕たちの意見も聞かず、紫色の髪の女性は金髪の女性の同行を受け入れた。

 男性の名を東雲翔。金髪の女性の名を三浦杏南。紫の髪の女性の名を四之宮雪というらしい。

 半日かかる馬車の中は、5人で賑わい、暇を感じることはなかった。

 

 東雲さんは、案外真面目で兄貴肌の人のようだ。好奇心でダンジョンに入るのではないかと危惧をしていたようだ。それなら、いっその事自分が守る形でダンジョンに潜らせようと考えたようだ。

 

 三浦さんは、強い自信を持つ人だと印象付けた。弓の手入れをしたり、本を読んだりと過ごしているが、ちゃんと会話は聞いているようで、鋭いツッコミなどを時折入れていた。


 四之宮さんは、僕や宗也さんに保護意識を強く持つ優しい人のようだ。しかし、財布の紐が固いのか、安い宿などを紹介してくれたり、食べれる野草を教えてくれたりと浪費とは無縁の生活を送っているようだった。


 ただ馬車が一緒になっただけ。

 その縁がこれから長く続くことになるとは、この時の僕は思うはずもなかった。


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