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光芒へのリフレイン  作者: 羽元樹
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ファッションリーダー柊

 金の装飾が施された白い扉は重厚な見た目とは違い、児童と化した非力な僕でも少しの力で開く。

 下へと続く長い階段は石造りで、セントラルテンプルが標高20メートルほどの小高い丘の上に建っていることを理解した。

 空気は生前と変わらないような気がする。心持ち美味い気がするのは気のせいであろう。

 頭上には青空が広がり、白い雲がゆっくりと流れている。

 眼下に広がるは、ビルや瓦ぶき家々。風力発電でもしているのか、遠くに大きな風車も見受けられる。ところどころに建っている鉄塔は電波塔だろうか。

 ほとんど生前の日本と変わらない。

 強いて言うなら、遠目で見るに道路はアスファルトではなく土っぽい。あとは町の外周を塀が覆っていることだろうか。

 階段を数段降りて、セントラルテンプルを振り返る。

「…寺院、ね」

 修学旅行で行った長崎を思い出す西洋風の白亜の教会を思い出した。

 六角形の台座の上に、教会本体が鎮座したような形だ。僕や明王たちがいたのは、六角形の部分だろう。

 上の教会本体部分に、おそらく『管理者・月読命』がいるのだろう。

「……?」

 見られているような気がするが…?

 それの確証を得る術を持ち合わせていないので、僕は階段を静かに下りることにする。


 下りながら、背中に背負ったリュックサックの中身を確認する。

 50センチほどの刃渡りの短い剣。円い木製の盾。踵のあるサンダル。あとは常備薬だろうか。青い包みも入っており、中身はおにぎりのようだ。あと一片の紙。

 その紙を広げると


 メニューを広げる意思を持って左手を上から下に下ろすとメニューが開きます。お金は10万円ほど入っています。2か月ほど暮らせる金額です。支払いは、お店のタッチパネルに左手で触れると支払いが完了します。よい旅を。


 要するに左手関連は操作系を行うようだ。

 ふむふむ、と一人でリュックサックを覗き込みながら頷く。

 そして、顔を上げた刹那。

「おわ!?」

 階段を踏み外した!?

 死んで、すぐ死ぬとか!?

 前へとバランスを崩し、空中へと身体が投げ出され、なかった。

「おっと、大丈夫?」

 ふわっと、僕の体を後ろから抱きしめる感覚。

「あ、ありがとうございます!」

 お礼を言いながら後ろを振り返ると二人の姿があった。

 今、僕を抱きしてめているのは15歳前後の少女。切れ長の目で、クールな印象を与える。流れる清流のような水色の長い髪がより一層、その印象を強めた。

 もう一人は僕より少し上に見える少年。ふわふわの緑色の髪を頭頂部で括っていた。

「怪我はないか?」

「ちゃんと足元をみないとだめだよ~」

 しゃべると、二人になんとなく違和感を感じる。チグハグな感じ。

「こちらに来たばかりなのかな?」

 小首を傾げて僕の顔を覗き込む少年。

 あぁ、少年の素振りが女の子っぽく、少女の動きが男っぽいんだ。

「はい。神崎蓮華といいます」

「蓮華?かわいい名前だね。ボクの名前は柊宗也だよ」と少年。

「私は有野詩乃」と少女。

 自分の名を告げると二人は目くばせをする。

「よければ、ボクたちと一緒に行こうか?」

「でも、柊さんたちはセントラルテンプルに用事があったんじゃ?」

「構わないよ。明王さまたちの耳に入れておきたいことがあっただけだし」

 有野さんが優しく微笑む。

「じゃあ、行こうか」

 そう言って、柊さんは右手を有野さんは左手を優しく握る。

 少しの不安は、その温かみで溶けていくのを僕は感じた。


 階段を降りると気づいたことがある。

 決定的に前世と違う世界だと認識させられた。

「…馬?」

 そう、町行く人々が乗っているのは車ではない。馬だ。

 馬以外にも、ダチョウにも似た鳥に乗っているモノ、小さな恐竜のようなモノに乗っているモノ、他にもペガサスやユニコーンの姿もある。

「車はないんだよ」

 黒いキャミソールに白いミニスカートというラフな格好をした有野さんが、少しミニスカートを翻し、僕に振り返る。

「車が動くには何が必要かわかるか?」

「……ガソリン、ですよね?」

「そう。でも、この世界はできて200年ほど。ガソリンの元となる原油、化石燃料がないんだよ」

「プラスチックもないんだよね」

 うむ、と柊さんの言葉に頷く有野さん。

「したがって、太陽光、風力、水力、地熱など自然エネルギーで賄うことになるんだけど、賄えるはずないよね。天候に左右されるし」

 有野さんの言葉に、うんうんと頷く柊さんだが、思考を放棄している様子だ。

「一緒のように見えて色々違うってことですね」

「そうだね」

 優しく頷いた有野さんの視線は僕から前方へ向く。二人は、示し合わせているかのように僕をどこかへ連れて行こうとしているようだ。

 町は中々に賑わっている。

 アマテラスさまが教えてくれたように耳の長いエルフや筋骨隆々なドワーフの姿も見える。

「…あの、どこへ連れて行かれてるんです?」

「もうすぐつくよ」と柊さんが握った手をぷらんぷらんさせる。

「ついたよ」

 そんなやり取りをした5分後、一行は黒一色のシックな建物の前で止まった。通路沿いにガラスのショーウインドウがあり、中には木製のマネキンが可愛い服を纏っている。

「…パンツ、履いてないんでしょ?」

 柊さんが僕の耳元で呟き、僕は無言で頷く。

「明王様たちは、下着を履く習慣はないのかもしれないな。私が生きた時代も女性は下着を履いてなかった…おっと、前世の話はマナー違反だな」

 前世の話はマナー違反なのか。覚えておこう。

「今更聞くのもなんだけど、蓮華ちゃんは女の子でいいんだよね?」

「いや、男です」

「そうなのか?宗也みたいに元々は女性だったとか?」

「いえ、男です」

 やはり柊さんは、生前女性だったらしい。

「詩乃ちゃんの生きた時代ほど、男性は男らしくないんだよ」

「私はな、常々思ってるんだよ。宴の席で女装してたのが災いして女性になってしまったのではないかと」

 有野さんは元々女装癖のある男性のようだ。

「明王様もおっしゃられたんじゃない?ランダムだって」

「うん、そうなんだけどな」

 いまいち有野さんは釈然としないらしい。

「とりあえず、中に入ろうか」

 そう言って、柊さんは僕を中に押し込んだ。

 有野さんは思案するタイプで、柊さんはアクティブな感じのようだ。


 中に入ると美しい服が並んでいる。

 大量生産の技術は確立されているようで、棚にはサイズ違いの同じ服が畳まれている。

「宗也くん、いらっしゃい」

「こんにちは、アルフィナさん」

 店の奥から少し緑かかった白い髪のエルフの女性が顔を覗かせる。

「おぉ、エルフ、本当に綺麗…!」

「あまりしゃべらないタイプだと思ったが、綺麗な女性には積極的だな」

 僕の言葉に少し有野さんは不満げだ。

「…私には一言もなかった」

「詩乃ちゃんはまだ100年早いってことよ」

「アルフィナには敵わないな」

 有野さんは肩を落とす。

「すまなかったな。お詫びにここは私が奢ろう」

「ありがとうございます、有野さん」

「せめて、詩乃さんと呼んでくれ」

「はい、詩乃さん」

 満足げに頷く詩乃さん。

「下着は、ボクと同じボクサーパンツでいいかな?これを5枚くらい。青いワンピース、結構似合ってるよね。エメラルドグリーンの髪って案外青って似合うのかな。肌も白いから、濃い色がいいのかも。でも、パステルっぽいのも捨てがたい。うぅむ」

 ぽん、ぽん、と僕の身体に服をあてがっていく。

「…宗也、蓮華がきょとんとしてるぞ」

「あぁ、ごめんね。自分で選びたいよね?」

「いえ、僕は服のことはわからないから、お任せします」

「うん!うんと可愛いのを選ぶね」

 カッコいいのがいいとは言える雰囲気ではなくなったな。

「…蓮華くん、でいいのかな?」

 必死に服を選ぶ柊さんを横目にアルフィナさんが声をかけてきた。

「はい。はじめまして、神崎蓮華です」

「君のエメラルドグリーンの長い髪も綺麗だと思うな。男の子なら、短髪にしたいだろうけど、切って欲しくないなぁ」

「あぁ、それは私も同感だ」

 アルフィナさんと詩乃さんが僕の髪に触れてくる。

「もしかしたら、その長い髪のせいでかもよ?こう庇護欲が湧くわよね」

「あぁ、それは私も同感だ!」

 詩乃さんが強く同意を示した。

「まだ自分の容姿がわからないんですよね」

「そうなの?」

 アルフィナさんがそう言って、横にあった姿見を僕のほうへ向ける。

 鏡の中には、長いエメラルドグリーンの髪に淡い虹色の大きな瞳、白い肌の性別不明の子供が映っていた。

「…なんか、その手の趣味趣向がある方に需要がありそうですね」

「そうかも知れないが、この世界では性犯罪は皆無なんだ」

 と詩乃さん。

「私たちは死人である以上、死なない。結果子孫を残す本能が極端に薄くなっているんだ。性欲は皆無なんだよ。まぁ、そのわりに女性には月のモノは巡ってくるのだが」

 そう言って詩乃さんは腹を撫でる。

「まるで、今は女であるという現実を突き付けてくるかの如く、な」

「エルフも似たようなモンだけどねぇ」

「アルフィナさん、これをお願い!」

 会話を割って入るように、アルフィナさんの前に大量の服を置く。

「…アルフィナ、私は億万長者に見えるだろうか?」

「宗也くん、せめて五分の一に減らしましょう」

「えぇぇ!?」

 不満げな柊さんの声が店に響くのだった。


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