親善試合
ルーネシアさんに視線を送る僕に向けられる鋭い視線を感じる。
視線の主はラディオスだ。
防御結界に口惜しそうな表情を浮かべている。
僕の膝に頭を乗せ、粗い呼吸を繰り返すマルフィナ。
「なんでこんな酷いことを…」
「あれじゃない?ラディオスとか言う人と意見が合ってないんじゃない?」
何気ない宗也さんの言葉に杏南さんが頷く。
「おそらく、ね。ラディオスに関しては初耳だけど、マルフィナは好戦的な人物だと知られているわ。ラディオスや、もしかするとオーデル王も目障りだったのかもしれないわね」
「…酷いな」
僕は同情の意思を持って、苦悶の表情を浮かべる彼女の頭を撫でることしかできない。
「…さて、この度はどのような御用でいらっしゃったのでしょうか?」
ルーネシアさんの声に、僕は視線を上げる。
「そうそう、我が国は貴方の国と良好な関係を構築したいと考えているんだよ」
「こんな新興国に、王自らご足労する価値は我が国にはないですよ」
「それを判断するのは我々だよ。我が国の『剣』浮遊城はどうだい?」
その場にいた全員が後方で鎮座する浮遊城を見る。
「友好の証として、浮遊城を御国に譲渡しよう」
「必要ありません」
オーデルの発言に全員が衝撃を受け、それを被せ気味に断るルーネシアさんにさらに衝撃を与えた。
「ほう?なぜだね?この国の防衛に役立ってくれると思うよ」
「理由は明確です。我が国は貴方の国と友好関係を築こうとは思っていないからです」
アガライド皇国側の人員に殺気が帯びる。
それをオーデルが手を上げて制す。
「理由を聞かせてもらえるかい?」
「婚約者の話をした時点でゆくゆくはこの国を併合する気でしょう?」
オーデルの表情に変化はない。
「…併合?地続きではないこの国を?」
「そうですね。アガライドとエルフォーリムの間にはセントラルがあります。でもそれは両サイドからセントラルを攻めることができる。…まぁ、証拠も何もありませんが」
「面白いね。参考にさせて貰うよ」
「繰り返しますが、貴方の国と友好を築くつもりはありませんし、正式に婚約はお断りさせていただきます」
「そうか、それは残念だ。しかし、こちらとしては『あぁ、そうですか』で帰るわけにもいかない」
「…なにをする気ですか?」
空気が凍る感覚。
セントラルの援軍はまだか…?
ファルナさんにアイコンタクトを送るが、ファルナさんは静かに首を横に振る。
「…親善試合でもしないか?知っているかい?一騎打ちモードなるものがあるんだよ」
何のために…?
首を捻る僕に杏南さんが説明をしてくれる。
「…実力を誇示するためよ。負ければ『弱い国』というイメージを持たれるから、戦闘力の最も強い人物を選ぶしかない。しかし、その強い人物でも負ければ…」
エリフォーリムは弱小国というイメージが確定するということか。
それって外交関係では不利に働くのではないだろうか?対等な話し合いが困難になるのでは?
「…これはまずいわね。私なら、この話には乗らないわ」
自然と僕たちはルーネシアさんの唇を凝視する。
「構いませんよ。確か一騎打ちモードは、肉体に傷を与えることはできないけど、ダメージが数値化されて、先にダメージ耐久値が無くなった方が負け、でしたよね」
その言葉に、杏南さんを始め、ミオさん、四之宮さんが下を向く。三人はその話を受けるべきではないと思っていたのだろう。
「…あの、もしですけど、こちら側が勝ったらどうなりますか?」
「アガライドが『強い』というイメージは変わらないと思う。ただこちらが勝てば『拍が付く』のは確かね」
「要するに勝っても負けてもアガライド側に損はないということですか?」
「負ければ多少はアガライドが『失墜した』と思われるかもしれないけど…確固たる軍事力の前では些細なゴシップ的なモノでしかないわね」
「こちら側は、翔くん?」
宗也さんの言葉に杏南さんは無言で頷く。
「東雲さん、お願いできますか?」
「私かい?光栄ですよ」
ルーネシアさんは、東雲さんに声をかける。いつも通りの雰囲気でゆっくりと前に出る。
「こちら側は、そうだな。羽佐間さん、頼むよ」
「はい」
グレーの髪の長身の少女が一歩前に出る。
しかし、羽佐間と呼ばれた少女に割り込むように金髪の狂犬じみた瞳の少女が前に出る。
「お待ちください、お兄様!十里よりもエルゼッテの方が!」
「…何か私の判断に不満が?」
「……い、いえ」
怯えるように金髪のエルゼッテが元の位置に戻る。
「ん?」
ふいに杏南さんが疑問の声を漏らす。
「今、エルゼッテって名乗ったかしら?」
「うん、そう言ってたけど?」
宗也さんの言葉に杏南さんの眉間に皺が寄る。
「…てっきりフィンローゼだと思ってた…じゃあ、フィンローゼは?」
「ごめん、人名が多すぎてボクわかんないよ」
そうよね、と杏南さんが苦笑いをする。
「フィンローゼはオーデルの姉よ。慈悲深い人物らしいけど…オーデルが王になってから姿を見ないの」
「もうオーデルに殺されてたりしてね」
「まぁ、そうでしょうね」
「えぇぇ!?」
冗談で言ったつもりだったのか、まさか同意されるとは思わず宗也さんが変な声を上げた。
「…なんか叩けば埃が出る王様ですね」
「そうね」
僕らの視線は中央で対峙する東雲さんと羽佐間の二人に向かうのだった。




