暗がりの密約
ミオさんとルーネシアさん、四之宮さん、杏南さんの中核メンバーは謁見の間に残り、とりあえず『解散』という形になった。
僕はルーネシアさんの隣に設置された自分の部屋に戻ることにした。
謁見の間の陰に隠れるようなポジションにある階段。
敵が城に侵入された際に王族のいるフロアへ続く階段を見つけにくくするためらしいが、薄暗くて怖い。
「…蓮華さま」
「ひぃぃぃぃぃぃぃっぶっっ!?」
何者かにいきなり声をかけられ、壁に押し付けられた挙句、口を塞がれ動けないように体を密着される。相手は女性か、感触は柔らかく甘い香りが鼻腔を擽るが…この城は女性の比率が高く何者かであるか特定する術はない。
「…ファルナです。お静かに願います」
「……!!!」
耳に息を吹きかけるな!
「申し訳ございません」
ファルナさんに解放されるとメタルバンドのドラムのような激しい鼓動を心臓が奏でる。
「…恋?」
「…殺されるかと思ったんです。恋に落ちる要素がありましたか?」
「胸を押し付けました」
「胸を押し付ければ誰でも恋に落ちるとでもお思いですか?ただでさえ生前の僕は女性が苦手だったのに、さらに精神が肉体に引っ張られて幼児化してますよ。異性にトキメキは抱かないかと」
「……お城の女性陣は『蓮華ちゃんは、性的にいぢると面白い』と話題になっていますが?」
「訂正を求めます」
「…女の子で良かったと認識できますね」
「……で、用事があったのでは?」
旗色が悪くなりそうなので、話題を変えた。
「…申し訳ございません。こちらに同意をいただきたく」
手を上から下にスライドすると何やら文書が表示された。
「これは?」
「…保険でございます」
文書に目を通してみる。
「…これはセントラルとの同盟の締結…か?」
「はい。セントラル…いえ、月読命さま的にはセントラルは中立でありたいそうです。しかし、今回はそうもいっておられないと判断をされたようです。ただでさえ、インフラの援助もあり、エルフォーリムへの影響が大きく、セントラルの傀儡国家と思われることを良しとしないとお考えです」
「それだけヤバイということ?でも、なぜ僕に?」
「ルーネシアさまは所詮表向きの傀儡でしかすぎません。このことを『無かったこと』にするには、必要最低限の人物が知っていればいいことです。どこから洩れるかわかりませんので」
もし必要無くなれば、権限のある僕一人が『忘れれば』済むことということか。
「……」
責任が僕の両肩にかかる感覚を感じる。
なんだかんだと責任から逃れていた、流れに任せていた僕が今、判断を迫られている。
でも、僕は罵られてもいい。今の仲間たちを守りたい。
「……わかりました」
署名欄に指で名前を記入する。
僕は深い深いため息をついた。ルーネシアさんに王になってもらうことを提案しておきながら、秘密裏に国家運営にかかわることを締結したのだ。
「これに関しては、他に選択肢はなかったように思います。気にやまないでください。そして、もう一つご提案がござ…ふふっ」
「なんです?」
僕は小首を傾げる。
「いえ、今、スゴイ顔をなされてましたよ?」
「…段々近づいてきてません?もう少し離れていただけると」
不愉快が表情に出ていたようだ。
「あ、申し訳ございません」
半歩前に出るファルナさん。完全にふざけに来ている。ファルナさんは基本的に事務的な笑顔なので真意を探るのが難しい。しかしながら、今回の提案はそこまで悲痛なモノではなさそうな雰囲気を感じる。
「有野詩乃さまという方はご存じでしょうか?」
詩乃さん…?僕は静かに頷くと言葉を続けた。
「現在、『組織』に対抗しうる仲間を探しているようですが、その『組織』にマークされて上手く動けないでいる模様です。セントラルに現状を報告してくださいました」
一旦、言葉を切る。
「正直、旗色は良くないようです。ワルキューレの大半は『強くてニューゲーム』を求めているようですね。現世に未練があるのは当然です。これを天照大御神さま、月読命さまは重く考えておられ、一人の人員の派遣を決定いたしました」
「今、決定してもアガライドが侵攻してからじゃ遅くないですか?」
「もう出発していますよ。今は『同盟に基づく援軍』ですがね。侵攻が事実となった際には彼女が連れている20のワルキューレと共に参戦。侵攻が目的でなければ、20のワルキューレはセントラルに戻り、彼女のみ残ります」
どう転んでも彼女は残る、ということか。
虚空に浮く書類のビジョンに目を移す。
「…神上、綺羅さん??」
「はい。彼女は完全に貴方の腹心となります。肉体年齢も7歳ほどなので蓮華さまとほとんど同年代となりますが、お強いですよ」
「もうすでにファルナさんもエオルナもいるし、アルガードさんも東雲さんも守ってくれると思うけど…」
「いえ、これからはアルガードさまも東雲さまもルーネシア女王陛下の護衛が主となります。そのための人員要因と思っていただければ」
「…そういうことなら、わかりました」
空欄に署名する。
「ありがとうございます」
ファルナさんが頭を下げる。
「時に、蓮華さま」
「なんですか?」
「お姫様抱っこでお部屋までお連れしましょうか?」
「お断りいたします」
「…むぅ。では、のちほど」
恨めしそうな顔をしながら、階段を下りていくファルナさん。
もしかしたら、数時間後に訪れる『波乱』に僕の気を紛らわせようとしていたのかもしれない。
「……なんか猫ちゃんみたいに可愛いんだよなぁ」
聞こえてるって。




