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光芒へのリフレイン  作者: 羽元樹
19/25

口紅

 お風呂場で湯あたりを起こし、痴態を晒してから1週間が経った。

 その間、どういう変化があったか、というと。


 我が国は借金大国となっていた。


 水力発電所の設置、浄水設備、汚水設備、セントラルを結ぶ道の整備。インフラ関係全てセントラルからの融資により行われていた。

 その借金を返す当てがあるのか、と言われると心許ないとしか言いようがない。

「うぅん」

 城壁から景色を眺める。

 北には山脈が広がり、そこから比較的大きな川が城壁近くまで流れている。川のほとりでは浄水設備の工場が作られている。

 そして平原に視線を移す。

 何もなかった平原に家が数件建築されている。

 コンコン、カンカン、ギュイーンと少し前まで静寂だった城は擬音に満ちていた。

 そんな平原の先に人影が見える。

「あ。ここにいたの?何かみえる?」

 目を凝らして僕の視線の先を見る少女。

 エオルナである。

「ねぇ、一応、貴方付きのメイドなんだから、私に黙ってどこか行かれると困るんだけど」

 そう言いながら温かいコーヒーが注がれたマグカップを「飲む?」と手渡してくれる。

「ありがとう」と返すと満足げに「へへへ」と笑って返す。

 結局エオルナは3日ほど拘束されたのちに、僕への忠誠、お世話係を約束すると解放されることとなった。基本的には面倒見の良い人間のようで、「仕方ないなぁ」と言いながら僕の世話に汗している。

「あち」

「あ、ごめんね、大丈夫?」

 どうも、ここの住人は僕の事を保護下に置きたいようだ。

「んで、何を見てたの?」

「農地作りですよ」

「なんかワルキューレが土いじりしてるな、と思ったらアレが農地なのね」

 そうなのだ。元アルブヘイムの人々は野菜や果実は『自然に生えているモノ』であり、肉は『モンスターを駆逐した副産物』でしかなく、安定した食料が供給できない、という面があったようだ。セントラルではワルキューレが小さく農地を耕しているが、セントラルになんとか供給できる程度の規模でしかない。

 そのため、『ツクヨミノミコト』さまの名義で僕に依頼が届いたのだ。

「インフラ整備の資金を融資するから、この世界に安定した食料を供給してほしい」

 渡りに船と言わんばかりにこの国の主要メンバーが農地作りを始めた、というわけだ。

 セントラルで農業をしていた『山田伊作』さんの主導のもと、今、まさに我が国の農業が始まろうとしていた。

 ちなみに、『山田伊作』さんは箸より重いものは持ったことのないような気品溢れる美しいお兄さんだ。ガリオルと二人並ぶと女の子が卒倒する美しさを持っている。

「農業のことは、おいどんに任せるでごわす。さつまの芋も育てて、芋焼酎も飲みたいでごわすな。さつまの焼酎は、わっぜ美味いが」

 生前、鹿児島の人だったんだろうなぁ。

「やらないの?農地作り」

「杏南さんに言われたらね。全てを背負い込むなって。農業に関して僕は無知ですから任せます」

「うん、それでいいと思うわ」

 何事もなかったように、僕からマグカップを奪い、一口コーヒーを口に含む。

「あっま」

 マグカップを再び僕に手渡し「じゃあね。ガリオルの料理、手伝ってくるわ」と手をひらひらとさせながら去っていった。

 インフラ関係は他国に委ねるわけにはいかないと四之宮さんが頑なに拒否していたが、インフラが整わないと国の態勢が成り立たないということで泣く泣く受け入れた。

 例えば電力の消費量や水の消費量をみれば、人口の目安ができる。そのうえ、有事となれば電気や水を止めるだけで国は干上がる。

 ソーラーパネルという案もあったが、安定した供給が難しいうえ、火事が起きればその光で発電を起こし、水をかけると感電、自然に消えるのを待つしかできないことを考えると木造建築が主体であるこの世界には向かないとファルナさんが警鐘を鳴らしていた。

「はぁ、話が難しいんだよなぁ」

 頭を掻きむしる。

「インフラをただ整えればいいだけ、と思ってたのになぁ」

 ルーネシアさんが王として指揮をとってくれて良かったと安堵する。

 ちゃんと全員の話を聞き、上手く折り合いをつけていく才があった。

「ん~、あまい、か?」

 コーヒーを一口含み、僕は首を傾げる。

「精神年齢が身体に引っ張られているのかなぁ」

 もう一口、コーヒーを含み、マグカップに視線を落とす。

 コーヒーの縁にピンクの跡が見えた。

 エオルナの口紅の跡か!?

「!!!!」

 これ、間接キス…?

 僕は慌てて唇とマグカップのピンク色を服のすそで拭った。


【有野詩乃さんからコールです】


「うっわ!」

 僕は慌てて、通話のボタンに触れる。

『ん。詩乃だ。久しぶりだな。壮健か?』

「壮健...?お茶?」

『元気か、という意味だな。まぁ、顔をみればわかるか』

 四角く表示される詩乃さんの顔。

 ほんの一週間前にあったばかりなのに、すごく懐かしく思える。

「詩乃さんも元気ですか?」

『あぁ。もっと話したいのだけれど、セキュリティー的に心配があるので用件だけ』

 詩乃さんの口元に浮かんでいた微笑みが消える。

『アガライド皇国の浮遊城が動いているとの話だ』

「浮遊城?」

『アガライドの支城で移動要塞と揶揄されている。目的地はおそらく聖エルフォーリム王国だ』

「え、その国って」

『そうだ。敵がなぜ勘づいたのか解せない。そちらにスパイがいるか。それともソレ以外の理由があるのか』

 スパイ...?

 仲間たち全員の顔を浮かべるが、どうもしっくりこない。

『私は、後者だと思っている。ルーネシア王女に何か理由があるのかも知れない』

「わかった。何かあれば連絡します」

『私はもう少し仲間を募る。また近々会いましょう』

「楽しみにしています」

 通話を閉じると、大きなため息がでた。

 コーヒーを飲み干し、空になったマグカップに視線を落とす。

「……全然口紅落ちてないじゃん」

 しっかりピンク色が自己主張しているマグカップを持って、僕は城内に戻るのだった。


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