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光芒へのリフレイン  作者: 羽元樹
17/25

トラウマ

 城の入口横に牛を置き、僕らは場内に入った。

 城の中に戻ると違和感があった。

 それは皆も感じたらしく、宗也さんが僕と同じ違和感を口にした。

「ん~?なんか暗くない~?」

 そう。お城の中が薄暗いのだ。

「なにかあったのかもしれない。二人とも足元に気を付けて」

 四之宮さんのように明かりと灯す魔法を使わないあたり、そういった魔法を二人とも使えないのだろう。使える魔法、使えない魔法、何か法則があるのだろうか?

「食堂は地下牢の反対側にあるよ」

 探索をしていたのだろう。宗也さんは嬉々として道案内を始める。

 彼の後をついていくと、一階の三分の一を占める広さの食堂に通された。

「ここは、パーティ会場や会食なども行うから、この広さが必要なんだろうね」

 だが、食道もどこか暗い。

 メンバーは全員席について僕らを待っていた。

「あ、待ってましたよ。空いてるお席にどうぞ。蓮華さんは、私の隣に」

 なぜ僕は好きに座らせてもらえないのだろうか。

 渋々、言われるとおりの席に腰を下ろす。

 長いテーブルは壁際に追いやられ、宿屋同様、大きな円卓が中央に備え付けられていた。

 テーブルの上にはすでに料理が並べられており、食欲を刺激する香りが鼻腔を擽る。

 和食が美味しい店だという。香りにすら味がついているように感じてしまう。

「さすが、雅の料理人!美味しそうなチャーハン、餃子…中華スープ……?」

「ん?宗也ちゃんは中華嫌い?」

「雅なのに和食じゃない?」

「雅の料理人は和食しか作っちゃダメかしら?」

「ううん、ダメじゃない」

「じゃあ、食べちゃいましょ」

「はい」

 ガリオルさんに言われるがまま、席に座る宗也さんは「あれ?」と言わんばかりに小首を傾げる。

「あぁ、申し訳ない。気になったのだが、城が全体的に暗くないか?」

 皆が箸に手を伸ばそうとしたとき、アルコードさんが例の違和感について触れた。

「すみません」と声を上げたのは四之宮さん。

「実は、お金がないんです。お城の電気消費がやばくって。システムに優先的に電力を回しています」

「発電施設は?」

「小型水力発電のみで、足りない分はセントラルから購入という形に…なので、節約を」

「じゃあ、仕方ないな」

「申し訳ありません」

「あやまることではないさ」

 初めてのお城での夕食は薄暗い中で行われることとなったのだった。


 ガリオルさんの腕は確かで、僕たちは舌鼓を打った。

「蓮華ちゃん、チャーハンをあの子に持って行ってもらえる?」

 ガリオルさんがお皿に盛ったチャーハンにラップをして、僕に手渡してくれる。

「わかりました」

「え?大丈夫?ボクもついていこうか?」

「いや、私が行こう」

 腰を上げようとした宗也さんを制し、三浦さんが立候補した。

「一人でも大丈夫ですよ?」

「…まぁ、私のためでもあるのよ」

「三浦さんのため?」

「そうよ。いきましょう」

 なんだろう、クールなイメージのある三浦さんだが、表情がいつもより固く見える。

 食堂を出ると場内は薄暗い。

 僕の前を歩いていた三浦さんだが、数歩の歩くうちに僕の隣を歩いていた。

「三浦さん、顔色悪くないですか?」

「そう?あぁ、いい機会だから、これからは私のことは杏南って呼んで欲しいわ」

「…杏南お姉さん?」

「……!!」

 一瞬、目を見開く杏南お姉さん。

「ごめんなさい、杏南さんと呼んでもらえる?心臓が持ちそうにないわ」

「そうですか?わかりました」

 ふわふわと杏南さんの金髪が揺れる。

 僕が小学一年生くらいというならば、杏南さんは中学二年生くらい。現世や霊界からこの世界に来た時にみんな、僕同様小学1年生となるので年上だから昔の人間とは限らないらしい。

 でも、杏南さんは元々名のある人なのではないかと思う。

「…なによ?私の顔に何かついてる?」

「いや、お綺麗だなぁ、と」

「ちょっ…だめね、私、どんどん女の子と化してる自覚があるわ」

「僕からしたら、杏南さんは女の子ですけどね」

「その発言に嬉しさを覚える自分は、もう女の子だわ。こうみえて、私、一軍団を率いていたのよ?」

「東雲さんも、そんな感じがしますね」

「あぁ、うん、そうね。あまり会話してないからわからないんだけどね」

 会話を楽しみながら、地下牢へと続く扉を開ける。

 杏南さんが僕の左腕を胸に抱く。

「杏南さん?」

「ごめんなさい。歩きにくいと思うけど、このままでいいかしら?」

「構いませんけど」

 どうも様子がおかしい。

 杏南さんに気を配りながら、階段を下りていく。

「はぁ、はぁ、はぁ」

「休みますか?」

「え?ううん、大丈夫よ」

 呼吸が荒くなっていることを自覚していないようだ。

 薄暗いなか、聞こえる杏南さんの呼吸の音が地下を統べる。

「もう着きますよ」

「…わ、わかった」

 目の前に現れた鉄格子の扉を開けると、右の鉄格子から声がする。

「もしかして、暇つぶしに来たの?」

「いえ、ごはんを持ってきました。チャーハンです」

「わ、ありがと」

 声の主のいる扉を開けると下着姿の女性が座っている。足の拘束は、ちゃんと外してくれているようだ。

「あの、逃げないからさ、手の拘束外してくれない?お手洗いが大変なんだけど」

 僕に向かって背中を見せると下着が上がり切っておらず、お尻が半分見えている。

「さすがにまだ信じきれませんので無理です。下着の方は、僕は触りたくないので、後で杏南さんにお願いします。ごはん、食べさせますね」

 スプーンにチャーハンを乗せて、エオルナの意外に小さい口に運ぶ。

「ん~!おいしっ!次ちょーだい」

 あっという間にチャーハンを平らげ満足げな表情を浮かべるエオルナ。

「美味しかったですか?」

「うん。さっきまでお腹空いてなかったんだけどね。気づかなかっただけで空いてたみたいだわ...ね、その子大丈夫?」

「え?」

 振り返ると杏南さんは真っ青な顔をしていた。

「わ、私は国のために戦っただけ!私が邪魔なだけでしょ!?」

「杏南さん!?」

 錯乱するように頭を抱える杏南さん!

 咄嗟にエオルナが叫ぶ。

「後で結んでいいから、私のロープを解いて!」

「…はい!」

「うん、いい子ね!」

 慌ててエオルナのロープを外すと、スプーンを手に取り、杏南さんに魔法をかける。

「眠りをっ!スリープクラウド!」

 杏南さんの顔がエオルナの発生した雲に隠れると、杏南さんは膝から崩れ落ちる。

 僕がその杏南さんを抱きしめると、全体重が僕に伸し掛かる。

 そして、ゆっくりとその体を横たえた。

「助かったよ、エオルナ」

「…構わないわ。びっくりした」

 地面に転がったロープを拾い、僕に渡してくる。

 私の手を拘束しろと言いたいらしい。

 意外に律儀な人柄のようだ。

「いいですよ。拘束は外します。なので、脱走はしないでくださいね?僕の信頼を裏切らないでください」

「わ、わかった」

「あと、パンツ、大分ズレ落ちてるのでご自分で直してください。僕は触りたくもないです」

「うん、ちょっと傷つく」

 下着を直すと、エオルナは再び地面に腰を下ろす。

「…もしかして、牢屋に監禁されてたのかもね。しかも、かなり激しい拷問を受けてたんじゃない?」

「…生前ですかね?」

「だと思うわよ。この世界、拷問は禁止されてるし」

「そうなんですか…」

 杏南さんの頭を僕の膝に乗せる。肉がないので、柔らかさは皆無だが地面よりはマシだろう。

 ウェーブのかかった髪は空気をはらみ、ふわふわ。よく見ると白い肌をベースとした顔には薄いそばかすが見える。まつ毛は栗色で、エオルナほどではないが小さい口で、それを縁取るのはピンクの唇。頬にはうっすらとピンクのチークをしており、ナチュラルな化粧を施していることを知る。

 そう、誰がどう見ても可愛らしい女の子だ。

「……ワルキューレも色々あるのね」

「そうですね…」

 杏南さんを眺めるエオルナの顔に、今までワルキューレへの嫌悪感は一切見えなかった。


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