地下牢のエオルナ
程なく謁見の間に全員が姿を現した。
入ってきた全員を真剣な目で見つめるルーネシアさん。
「謁見の間へようこそ、みなさん」
空気が張り詰めるのをみんな感じていたようだ。
「今しがた『聖エルフォーリム王国』の建国を宣言いたしました。あなた方とは昨日お会いしたばかりです。それを踏まえてお願いいたします。一緒にこの国を盛り立てていきませんか?」
とても昨夜にセクハラめいたことをした人と同一人物とは思えない気品に満ちたルーネシアさん。みんなもその空気に飲まれている。
「私は、暗躍している『組織』に対抗しうる勢力を作りたいと思っております。簡単な道ではないでしょう。さらには帰巣派の存在もあります。無理にとは申しません。どうか、手を、『私たち』に手を貸していただけないでしょうか?」
「俺は元より協力する気だ。ウンディーネのミオリア。よろしく頼む」
間をおかず、ミオさんが声を上げる。それが皮切りとなったのか、次々と声を上げてくれる。
「私も参加させてもらおう。東雲翔だ。軍事に関しては多少力になりえると思う」
「では、私も軍事には明るい。三浦杏南。遊撃が得意だと自負しているわ」
「わたくしも微力ですが参加させていただきます。四之宮雪です。財政面なら多少お役に立てるかと」
「魔族のアルコードです。参加させてもらいますよ。帰巣派は…敵です」
「サラマンダーのガリオルよ。大した力にはならないでしょうけど、協力させてもらうわ」
そして、視線が僕と宗也さんに集まる。
「へ?あぁ!ボクたちがお願いしたんだよ、立国を。お願いした立場だからね、もちろん協力するよ、ね?」
「はい」
僕たちはコクンと頷く。
この場において僕は圧倒的な人生経験の乏しさを認識していた。
建国を前に、この場で一番空気に飲まれていたのは誰でもなく僕だろう。
「みなさん、ありがとうございます。では、簡易ではありますが、東雲さん、三浦さんは軍事面を、四之宮さんは財政面をお願いいたします。アルコードさんやガリオルさん、柊さんはそれぞれの補佐をお願いいたします。そして、総括をミオリアさん、お願いできますか?」
「もちろん」
「そして、神崎さんは私の補佐を。システム管理はファルナさん、引き続きお願いできますか?」
「は、はい」
「承知いたしました」
空気が薄い。
「ファルナさん、この国の税収はどうなりますか?」
「はい。皆様もご存じの通り、国内での金銭のやり取りに10%の税金が徴収されております。しかしながら、現在データベースにて確認したところ、私たちを除けば9名しか存在しておりません」
「…なんとか資金を集めないといけませんね」
玉座の背もたれに体重を預けるルーネシアさん。
そんなルーネシアさんに、宗也さんが近づき、耳打ちをする。
「あぁ、ごめんなさい。気づかなったです。どうぞ、行ってらっしゃってください」
「いこっか」
宗也さんがそう言うと僕の手を取って広い謁見の間を走り出した。
「アルコードさんも、ちびっこの面倒を見てもらっていいですか?」
「保護者だね、わかった」
宗也さんと共に僕とアルコードさんは謁見の間を後にするのだった。
謁見の間を出た僕は、大きく息を吐いた。
「大丈夫かい?」
「顔、真っ青だったぞ?」
二人が心配そうな顔を見せる。
「大人の世界というか…頭が真っ白でした」
「場違い、な感じだったね」
そんな僕らの様子をアルコードさんは微笑みながら眺めている。
「自分も場違いさを感じていたところだよ。とりあえず、ここから離れようか」
僕たちは階段を下りることにした。
一階に降りると、ふと思い出したことがある。
「そういえば、エオルナはどうなったんです?」
「あぁ、様子を見に行くかい?」
「はい」
階段を下りて左に行くと黒い鉄製の扉が目に入る。
アルコードさんが扉をあけると少し苔むした臭いが鼻腔を擽る。
「暗いから気を付けて」
まるで映画館のように階段の縁が青く光を灯しているが、決して明るいとは言えない。
「さ、いこ!」
宗也さんが、僕の手を取り階段を下りていく。その温もりが不安を溶かすようだった。
少し長めの階段を降りると鉄格子の扉が現れる。
先ほど同様アルコードさんが扉を開ける。
すると左右鉄格子の扉が3つづつ構えていた。
「右の一番手前だよ」
目的の人物は水色の下着姿で石畳に寝かされていた。両手を後ろ手に結ばれ、足の自由も奪われている。
中に入るとそんな彼女はキッと僕たちを睨む。
「私は何も話さないわよ」
僕は彼女の傍らにぺたんと座る。
「な、なによ?」
そんな僕に倣って宗也さんとアルコードさんも床に座る。
「ワルキューレが、私に何をしようっていうの!?」
騒ぐエオルナを眺めながら、宗也さんがにやっと笑う。
「アルコードくん、知ってる?昔、逆さまに磔する刑があったらしいよ?」
「じゃあ、やってみるか?」
「え!?ちょ!?」
エオルナの両足を結んでいた紐を掴むと立ち上がり、持ち上げようとした。
「…アルコードさん、それはいつでもできますから」
「あぁ、そうだね」
「ぺひっ」
僕の言葉にアルコードさんは無造作に手を離すとエオルナは床に顔面を強かにぶつける。
「そういえば、なんで下着姿なの?」
小首を傾げる宗也さん。
「み、みないでよ」
鼻血を垂らしながら身を小さくする。
「いや、ボクは生前、女の子だったし。ワルキューレが性欲ないのってこういうのもあるんじゃない?」
「夜叉王が話されていただろう?裸にしろと」
「下着は裸じゃないよ?」
「いや、あまり見たいモノではないからな」
「ちょっと!そこの二人、失礼じゃない!?」
結局、見られたいのか見られたくないのか…。
「アルコード、あなた魔族でしょ?なんでワルキューレの味方してるのよ」
「知らないのか?ここにいる魔族って、元々天使なんだよ。人間に恋して堕ちた堕天使たちだ。ワルキューレの味方するのは当たり前だろう?」
「え。知らなかった。よく見れば顔に気品があるような」
「気持ち悪いな、そんなに見るんじゃない」
どうやら、アルコードさんはエオルナに嫌悪感があるようだ。
アルコードさんは無理だと認識したようだ。
視線が僕に移る。
「ね、紐が食い込んでお姉さん痛いなぁ。緩めてくれない?少しだけでいいから」
芋虫のように、くねくねと身体を動かし、僕に胸を当てようとしてくる。
「ね、少しでい……え?なに?私、なんか悪いことした?」
「あー、その子、色仕掛けはNGだよ」
どうやら僕はスゴイ顔をしていたようだ。
「…性欲がないんじゃなかったの?」
むぅ、と僕は不満を口にする。
「いや、あのね、えーと…?」
「蓮華です」
「あぁ、ありがと。でね、蓮華ちゃん、確かに性欲は乏しいんだけど、ワルキューレよりはあるのよ。生きてるわけだし」
確かに、美悠さん以外はワルキューレではなかったな。
「あのね、だから、そんな顔で見られれると流石のお姉さんも心が痛いというか、女の自尊心というか、ね?わかってくれる?」
「…えっと、わかりません」
「わかんないかぁ。そっかぁ」
しょぼんとした顔を浮かべるエオルナに流石に可哀そうになってきた。
「え?」
仕方ないので僕は頭を撫でてあげた。
「アルコードさん、足の縄は外していいです。じゃあ、また明日」
アルコードさんが足の縄を外したのを確認すると、エオルナに頭を軽く下げて僕たちは地下牢を後にした。
「…蓮華ちゃん、どしたの?」
「あの、服を着せれません?」
「ん~無理」
即否定されてしまった。そんな僕らを苦笑いしながらアルコードさんが見ていた。




