9話 隣人は学食でも目立っている
学校での昼食は大体学食で済ませる。コンビニで買ってくることもあるが兎に角安くて量があるということと、隼人が学食好きなのでほとんど毎日一緒に昼食を食べる尊は比例して学食に行く頻度も増える。
そして今日も変わらず二人は学食で昼食を取ることにした。
「今日はAランチとBランチどっちにするかな」
「俺はガッツリ肉がよかったからBの唐揚げだな」
「唐揚げもいいよな。でも、Aのカレーも捨てがたい。尊の唐揚げ一個くれよ。カレー一口分けてやるから」
「一口じゃ割に合わん。茶碗一杯分で手を打ってやる」
「それはお前が取りすぎだろ!」
結局隼人もBランチの唐揚げ定食に決め空いてる席を探し席に着く。
今日の唐揚げ定食は唐揚げ3つにサラダと冷奴、ご飯に味噌汁にデザートにプリンが付いていた。
隼人はちゃっかり唐揚げ1個をおまけしてもらっている。
「そんじゃ食いますか」
いただきます、と手を合わせ唐揚げに食らいつく。
カリッとした衣の感触にじゅわっと溢れる肉汁が口いっぱいに広がる。一口食べれば止まらないこの唐揚げは学食でも人気のメニューの一つで尊もよく注文する。
今日もいつも通り変わらなく美味しいのだが、尊は少し物足りなさを感じていた。
「ん?どうした?なんか不満げだけど。まずいのか?」
「いや、うまいけど。そんな風に見えたか?」
「ああ、なんか満足してない感じがしたけど気のせいかもな」
やはりこういう時の隼人は勘がいい。
唐揚げはもちろんまずくはないのだがどうしても朱莉の料理と比べてしまう。
しっかりと味の染み込んだ朱莉の唐揚げは尊好みの絶妙な味付けで、ついつい夢中になって食べてしまう。
なので、唐揚げを食べているとどうしても思い出す。
尊も顔には出してなかったつもりなのだが隼人には感づかれてしまったようだ。
「こんなにうまいんだからまずいとか思うなんてないわな。もしそうなら味覚がおかしいか相当舌が肥えてんだろうな」
「……そうなんだろうな」
朱莉の料理は普通に店で出ててもおかしくない味だ。
食べる度にそう思わされる。
そんな絶品な料理を毎日のように食べているのだからもしかしたら気づかぬ内に舌が肥えてしまったのかもしれない。
「まあ、お前の不健康的な生活に後者はありえないわな」
盛大にバカにしたように笑う隼人。尊の家事スキルではまずありえないと思ったのだろう。実際料理は全くできないので反論ができないがとりあえず目を細め睨みつけておく。
怖い怖い、と言いながら肩をすくめ唐揚げを口の中に放り込む。
いつも通り全く効果がないので疲れたように息を吐き、尊も唐揚げに齧り付いた。
そんな風に二人で食事をしていると学食内が少し騒がしくなった。
生徒達、主に男子生徒の視線が一点に集まっている。
尊も視線の集まる箇所を見てみれば朱莉が数人の女子生徒と学食内に入ってきた。
やはり朱莉というべきか、ただ学食に来ただけでこの注目だ。本人も見られていることは自覚していると言ってたが確かにこれは気づかない方がおかしいだろう。
それでも全く気にした様子のない朱莉には感心する。
「おお、鳴海さんか。学食なんて珍しい」
「初めて見るかもな。俺たちが気づいてなかっただけかもしれないが」
「いやいやこんな回り騒がしくなったら気づくって」
見ると学食の料理を頼んでいるのは朱莉以外の女子生徒で朱莉は手に弁当袋のようなものを持っている。いつも弁当を持って来てるから学食では見たことがなかったのだろう。今日は友達の付き合いで来たってところか。朱莉ほど料理がうまければいちいち学食の料理を頼む必要もないのでそれなら納得がいく。
そんな他の女子生徒達を待ち離れていたところで立っている朱莉を見ていると不意に視線が合う。決して長くはないが短くもない時間見つめ合い、咄嗟に尊は目を逸らした。
流石にこのまま見続けるのは不自然すぎる。他の生徒に気づかれていないかと視線を辺りにやれば、「鳴海さんこっち見てるぞ!」「手振ってみるか!振り返してくれるかもしれん!」など男子生徒が周りで騒ぎまくっていたので、尊は自分の考えすぎに阿保らしくなる。
ほとんどの生徒の目線が朱莉に向いているのに尊を気にする生徒などいないだろう。
不要な心配だったと尊は食事を再開する。
「なあ」
「ん?どうした?」
「今鳴海さんお前のこと見てなかったか?」
「………」
本当に勘がいいなこいつは。
「気のせいだろ。こんだけ生徒がいるのに何でピンポイントで俺を見てんだよ」
「そうなんだけど、お前見た途端視線が止まったような」
「考えすぎだ。第一俺は鳴海と学校で話したこともないんだぞ。そんな一般生徒の俺を見てたわけないだろう」
学校で話したことがないのは本当だし嘘は言ってない。
内心ひやひやしたが尊が朱莉に毎日のようにお裾分けをもらっていることを隼人が知る由もなく、自分の考えすぎか、と納得する。
高校入学からの短い付き合いだが、今回の隼人には肝が冷えた。
勘がいいというよりは人の機微に敏感なのか、隼人の観察眼は確かなのだろう。
少々自分の友人を甘く見ていたことに反省する。
気づけば皿の上の唐揚げは全てなくなっており、最後の方は全く食べた気がしなかった。
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