6話 隣人に餌付けられている
「お前最近本当に顔色よくなったよな」
「あんま人の顔じろじろ見るな」
「いやでも本当に変わったぞ。なんというか生気に溢れているというか。死んだ魚みたいな目してたのにな」
恐らくそう見えるのは朱莉のおかげで食事面が改善されたからだろう。
毎日いろいろな手料理を差し入れしてくれるのだからそりゃあ健康にもなる。
朱莉は不得意とする料理がないのか和洋中と様々な料理を作ってくれる。
本当に隙のない完璧な美少女だ。
「お前そんな風に俺のこと見てたのか」
「いつ本当に死んじまうんじゃないかと心配してたんだからな」
「そこまでやわじゃない」
朱莉も言ってたがそんなに死にそうに見えてたのか。
自分のことは自分が一番わかっていると言いたいが二人に同じことを言われては認めざるを得ないな。
「何か生活習慣変えたのか?ここまで変わったんだからなんかあるだろ」
「まあ、ちゃんと寝るようにはなったな」
「それだけか?」
「なんだよ、それだけって」
「寝るようになっただけでこんな変わるもんかと思って、なんかもっと健康面、食事とかが改善されたのかと」
「……お前変なとこで勘がいいよな」
たまにこうして隼人にはいろいろと見抜かれてします。
人との交流が多い隼人だから人を見る観察眼が鋭くなっているのかもしれない。
逆に尊は極力人とは関わらないようにしているのでこういった人の変化を見抜くのは苦手だ。
たまに朱莉を怒らせるのもこれが原因かもしれない。
「へえ、じゃあご飯でも作るようになったのか。いつもカップ麺ばかり食ってたもんなお前」
「まあ、そうだな。ちゃんとしたもの食うようになったよ」
嘘は言ってない。朱莉のちゃんとした料理を食べるようになったのだから。
自分で作ったとは言ってない。
「まあ、これで見た目少し気にすれば言うこと無しなんだけどな」
「うるさい。見せるような相手いねえからいいんだよ」
尊の前髪で隠れた目元を晒すように隼人は前髪を持ち上げる。
その手を鬱陶し気に払い落とす。
ケラケラ笑う隼人をついでに睨んでおくが全く効果がない。
逆に更におかしそうに笑ってくる。
何をしても無駄みたいなのでもう諦めよう。
「なあ、今日部活ねえから久々にハンバーガーでも食べに行こうぜ」
「ああ、そうだなー」
ほんの少し迷い隼人の誘いに同意しようかと思ったのだが、
「いや。今日は止めとくよ。また今度行こうぜ」
「そうか、じゃあまた今度な」
隼人は気にした様子もなく、また誘うと笑っている。
別に用事があるってわけでもなかったんだが、外で食べてきて満腹になり朱莉のお裾分けが食べれなくなるのは困る。
大分依存してきてる。最近では一日の唯一の楽しみになっている。
(いつの間にか餌付けられてるな)
もう朱莉のご飯を食べないと満足できなくなっている。
いつまでこんな関係が続くかもわからないのに先が思いやられる。
今日のお裾分けはいったい何だろうか。
まだ朝だというのにこんなことばかり考えてしまうとは、思わず苦笑してしまう尊だった。
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