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37話 隣人の友達は全然タイプが違う

「ほんっとうにごめんね皆!」


 両手を合わせれて瞳に涙を浮かべながら謝る陽菜。

 学校での騒動の後、尊たちはハンバーガー店に来ていた。


「もう終わったことだしいいよ陽菜さん」


「そうそう。結局朱莉がダメって言えば誰も逆らえないんだし」


「その言い方はちょっと違う気がするけど」


「う~皆優しい~ありがと~」


 朱莉たちから気に掛けるように声を掛けられ、落ち込んでいた陽菜も嬉しそうに笑顔を作る。


「でも本当に今回は焦ったよな。流石は鳴海さんって感じだけど」


「まあ、わかってたから俺たちは最初から誘おうとも考えてなかったんだけどな」


「ん~ごめんね~」


 攻めてたつもりはなかったのだが再び陽菜が謝りだしてしまった。

 本当に申し訳ないと思っているのだろう。ここまで素直に反省する姿は初めて見る。


「もう、平野君、陽菜さん泣かせないでよ」


「別に泣かせてないだろう。……あー、陽菜もう気にしてないからそう落ち込むな」


 尊のせいで場の空気を壊すのは望んでいないので一応フォローを入れる。

 すると陽菜はちらっと尊を見て――。


「新商品のデザートを食べれば私も元気になると思うんだけど――みーくん買ってきて」


「お前本当は反省してないんじゃないか」


 ペロっと舌を出してねだる陽菜に眉間を寄せる。

 そんなやり取りで場が和んだのか笑い声が生まれる。


「あはは、陽菜それはないわ。反省してて何かねだるとか」


「うーん。私の予想だとみーくんは黙って買ってきてくれるはずだったんだけど」


「お前の中で俺はどんな人間なんだ」


「私のお願い何でも聞いてくれる都合のいい人?」


「よし、こっち来い。ちょっとよく話そうか」


 陽菜とそんなやり取りをしていたため再び笑い声が生まれた。


「まあまあ尊、陽菜にも悪気はないと思うし」


「まったく。しっかり彼氏のお前が管理しててくれ。この天然人間爆弾の扱いは俺には荷が重い」


「みーくんもたまに私の扱いひどいよね」


 いつもの三人で好き勝手しゃべっていたせいで机の向かいに座る朱莉たちが置いてけぼりになっている。

 はっと気づき尊は朱莉に声を掛ける。


「すまん。ついいつもの感じで話してた」


「気にしなくていいよ。三人って本当に仲いいよね」


「まあ、入学してから大体一緒だからな。それより……」


 尊は朱莉の隣の女子生徒たちに軽く目を向ける。

 それで察してくれた朱莉が「ああ、そうか」と隣を見る。


「紹介してなかったね。こちらは私と同じクラスの葛城(かつらぎ)奈月(なつき)さんと黒川(くろかわ)沙耶香(さやか)さん」


「はーい、葛城奈月ね。よろしく」


「えーと、黒川沙耶香です。よろしくお願いします」


 二人からそれぞれ挨拶を貰う。


 何と言うかタイプが全く違う二人だ。奈月は見た目も少し派手なギャルといった感じだが沙耶香は大人しめでぱっと特徴がないといった感じだ。とはいっても、二人とも目元がはっきりとし、鼻筋も通っているとても可愛らしい女子だ。


「あー、初めまして、平野尊です。こちらこそよろしく」


「うんうん、みーくんよろしくね」


「……みーくんは止めてくれ。それ恥ずかしいんだ」


「え、そうなの?可愛いと思うけど」


「だから恥ずかしいんだよ」


 流石はギャルだ。初対面でもここまでフレンドリーに接することができるのか。

 尊はギャルだからと苦手意識があるわけではないので何とか会話が成り立っている。


「こっちのメンバーだと陽菜はいいとして隼人の紹介もいるよな」


「ああ、九条君は私も奈月も知ってるから大丈夫だよ」


「そうだったのか」


「はい。たまに陽菜ちゃんと一緒にいるとき話したりするから」


「となるとこの中で本当に初対面なのは俺だけか」


「みーくん友達少ないし仕方ないよ」


「それはフォローしてるのか。喧嘩売ってんのか」


「私がみーくんのフォローするわけないじゃん」


「やっぱり一度ちゃんと話す必要ありそうだな」


 再び最初のやり取りに帰ってくる。

 陽菜にいろいろ文句をぶつけようとするが隼人の後ろに隠れ躱そうする。


「あはは、三人とも面白いよ。いいね気に入った」


「奈月すぐ人のこと気に入るよね」


「えー、そんなことないって。本当にいいなって思っただけ」


「そうかな。昔からそんな感じだと思うけど」


 奈月と話しているときの沙耶香は他の人と話すよりも砕けた感じで会話している。不思議そうに二人のやり取りを見ていると朱莉から声を掛けられる。


「幼馴染らしいよ二人。だから仲いいの」


「ああ、そういうことか。黒川、葛城のことだけ呼び捨てだったから相当仲がいいんだなとは思ってたけど」


「ねえ、他の人は絶対に呼び捨てにしないのに仲の良さを周りに見せつけてるんだよ」


「そ、そんなことないよ。でも、仲がいいのはそうだね」


 お互い楽しそうに笑う朱莉と沙耶香。


 朱莉が誰かを揶揄うのを初めて見た。これが学校で友人に見せる朱莉か。尊は興味深く朱莉を観察していた。


「てかさ、あたしは朱莉に聞いてみたいことあるんだけどな」


 そこで奈月が話に入ってきて楽し気に朱莉の首に腕を回す。


「朱莉が男子としゃべってるのなんて初めて見たけど。ねー、尊と仲いいみたいじゃん」


 にやにや笑みで朱莉の顔を覗き込む。いつの間にか尊も名前呼びになっている。


「初めては言いすぎでしょ。私も男子としゃべることくらいあるし」


「しゃべるっていってもクラスの子に事務的な用事ででしょ。朱莉が自分から会話してるのって珍しいよね」


「そんなこと……あるかな……」


 口元に手を添え、学校での自分を思い出す様に考える朱莉。普段から男子に話しかけられることが多い朱莉としては普通に会話していたつもりだが、一度考えてみると自分から話しかけに行くことは無かったように思う。


「そうだよ。あたしさっきも廊下で尊を呼んだ時正直びっくりしてたからね」


「あ、それは私も思った。朱莉ちゃんが男子を呼ぶの珍しいなって」


「あー、ちょっとやっちゃったかなこれ」


 二人からの追撃に朱莉も自分のとった行動の異常さに気づいたようだ。


「でも今までそんな隙一切見せなかったのにね。どうしちゃったの朱莉」


「夏休み明けで油断しちゃったのかも。これからは注意しないと」


「そうなると明日は大変かもしれないね尊」


「ん?何がだ?」


「だってこの朱莉に名前呼ばれたんだよ。少しは意識する人出てくるって」


「………」


 尊は学校の廊下でのやり取りを思い出す。

 確かに最後廊下を歩いてる時も視線が気になっていた。一時的なものと思いたかったがやはりそういうわけにもいかないかもしれない。


「尊これを機にみんなともっとコミュニケーション取るってのはどうだ」


「もし本当に明日から俺に近づいてくるやつらは探りを入れてくるだろうから仲良くなれる気がしない」


「本当に捻くれてんな」


「うるさい」


 揶揄うように笑う隼人を横目に一睨しておく。


「何?尊コミュニケーション取るの苦手なん?あたしたちと普通に話してんのに」


「こいつは苦手というより必要以上に関わらないってだけだな。話しかけられれば普通に受け答えできるし」


「へー、物静かな感じだもんね」


「根暗なだけだぞ」


 おかしそうに笑う奈月と隼人を見ながら尊は頬を引きつる。自覚はしているしその通りなのだが、言われれば多少ムカつく。


「平野君……その、ごめんね」


 二人に負の感情を抱いていると突然朱莉から謝罪が飛んできた。

 尊は意味がわからず首を傾げる。


「何がだ?」


「だから廊下で名前呼んだりして……」


「……別に名前を呼ぶくらいおかしなことじゃないだろ」


 謝罪する朱莉を見て胸が痛くなった。持って生まれた容姿のせいで何をするにも周りの視線を集めてしまう。普通に人がやることでも朱莉がやるのでは意味合いが違ってくる。多分今までもそういった苦労をたくさん経験してきたんだろう。


「前にも言ったけど友達同士が話すのがおかしいわけないんだ。名前を呼ぶくらい気にする必要ないぞ」


 尊の考えは以前と変わらない。友達ができることを朱莉が我慢する必要なんてないんだ。

 朱莉は尊の言葉にしばし目を瞬かせ――。


「うん、そうだったね。……ありがとう」


 柔らかく微笑みお礼を口にする。その優しい目を直視できず尊は照れ隠しに顔を逸らす。

 気づけばどことなく甘い空気が漂ったがそこを奈月が壊す。


「やば、超いいんだけど今の朱莉の顔」


「え?」


 奈月の指摘に朱莉が素っ頓狂な声を上げる。


「うん。あーちゃん今すごい女の子って顔してた」


「女の……え?何?」


「これは尊が照れちゃうのも仕方ないね。あたしでもドキッとしたもん」


「……うるさい」


 自分でもあからさま過ぎたと思うが流石に照れてるのを隠しきれていなかった。


 朱莉は今自分がどんな顔しているかわからず、顔をぺたぺた触りながら戻ったのか慌てて沙耶香に確認している。


 始業式からとんでもないイベントが発生したものだ。

 皆の楽しそうに笑う姿に釣られ、尊も頬を緩めていた。


 ――この時の尊たちは学校での朱莉とのやり取りを軽く見ていた。その結果、明日自分たちの学校生活がひっくり返るような出来事が起きるなど考えもしてなかった――。

 お読みくださりありがとうございます。


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