30話 友達でもクレープ食べさせ合うのはどうなのか
店を出て再びフードコートへやってきた。
「服も買ったし次はどうしようかあーちゃん」
「うん。私も服買えたしどうしようかな」
店を出てから陽菜は朱莉にべったりだ。
よっぽど朱莉のことが気に入ったらしい。
呼び方もあーちゃんで定着している。
「はーくんのクレープ美味しそう一口ちょうだい」
「はいはい、どうぞ」
「ありがとう」
隼人から差し出されたクレープを大きな口を開け頬張る。
女子としてどうなのかと思うほど口を開けてたが本人は気にしていないらしく、美味しそうに表情を緩めていた。
口の中のクレープを飲み込むと今度は尊に狙いを定める。
「みーくんのも美味しそうだね」
「そんなに食い意地をはってると太るぞ」
「太りませーん。ちゃんと運動してるもん」
お腹をぽんぽん叩き、得意げに鼻を鳴らす。
実際陽菜は食べても全然体形が変わってなさそうなので本当にしっかり管理しているのかもしれない。
「あげるのはいいがスプーンとかないしな」
「別にいいよそのままで」
「そのままでって……なら、はい」
陽菜が気にしないならとクレープを手渡そうとするが――。
「あむっ」
差し出したクレープにそのままかぶりついた。
唖然としている尊を尻目においしい、と口を動かしている。
「彼氏持ちの女性としてどうなんそれは」
「んー?みーくんだし別にいいかなって思ったんだけど」
「……どうなの彼氏として?」
「え、尊だしいいんじゃないか?」
この二人の尊に対する信頼度は何なのだろうか。
知らないうちにカンストしていたらしい。
無条件でいろいろ許されそうだなと考えていると尊の正面から冷めた視線が飛んでくる。
「平野君と二人ってすごく仲がいいんだね」
声の主は朱莉だ。学校モードの笑顔を作った朱莉なのだが目の奥が笑っていないのを正面にいる尊だけはわかった。
(え?なんで怒ってるのこの人)
全く心当たりのないため困惑する尊。
何かしたかと胸に手を当て考えるがやはり思い当たらない。
「あ、ああ。なんか自然とな。気づいたらよくしゃべる様になってた」
「そうなんだ。クレープ食べさせてあげるくらい仲良くなったんだね」
(……え?そういうこと?クレープ食べさせたから怒ってんの?)
だが、そうだとして朱莉が怒る理由がわからない。もしかしたら――。
「えーと、鳴海も食うか?」
「はい?」
一瞬周囲が凍り付いたのではないか思うほど寒気を感じた。
(はい。すみません。違いますね)
鳴海も食べたいのかと思って言ってみたがどうも違ったらしい。
笑顔の奥の闇が更に深くなる。
「あの……なんだ、別に頻繁に食べさせたりとかしてないぞ。まあ、友達ならこれくらい普通の範囲っていうか」
「そう。友達なら普通なんだ」
言うと朱莉は自分のクレープを尊に差し出してきた。
「は?」
「友達なら普通なんでしょ?どうぞ平野君」
「いや、俺もうお腹いっぱ――」
「どうぞ」
有無を言わせぬ圧を感じる。
隼人と陽菜は面白いものが見れると目を輝かせながら様子を見守っていた。
(これは流石にアウトじゃないか)
尊としては陽菜とだってどうなのかと思っていたのに、それが朱莉となると余計に抵抗がある。
だが、拒否する選択肢は残っていないだろう。朱莉がそれを許さない。
意を決して尊は朱莉が差し出したクレープにかぶりつく。
「「おおー」」
と隼人と陽菜から歓声が上がる。
「どう?」
「う、うまいよ」
「そう。ならよかった」
満足したのか誇らしげに相好を崩す。
いったい何がしたかったのか。恥ずかしくて朱莉の顔が見れない。
ふう、と息を吐き、残ったクレープを片付けようとしたとき、にこにこしながら陽菜が言う。
「貰ったんだからみーくんもお返ししないと。ほら、あーちゃんにあーんって」
楽しそうに言う陽菜の言葉を聞いて、一瞬朱莉がびくっと反応する。
「お返しって言うならお前からも貰う必要があるが」
「私もう食べちゃったから」
「本当にいい性格してるよお前」
人にさせようとしてるのに自分はやらないとは。
朱莉から貰うのもアウトだと考えていたのに尊から何て論外だ。
断ろうと朱莉の様子を窺うと。
「………」
目が泳ぎ手元が震えていた。
あきらかに動揺している。
朱莉としてもこの展開は予想外だったのか。
それに気づいた尊は先ほどまでの考えを百八十度変える。
「そうだな。お返しはしないとな」
尊はクレープを朱莉に差し出す。
「さあ鳴海どうぞ」
「え、いや、でも……」
「遠慮するな。俺もさっき貰ったんだからこれで御相子だ」
ニヒルな笑みを作りさらに朱莉の方へクレープを送る。
「いや、あの……」
朱莉が動揺している間にクレープは口元まで移動していた。
逃げ場を失い観念したのか。小さな口でクレープを一口食べた。
「どうだ?」
「おい……しいです」
「それはよかった」
恥ずかしそうにか細い声で答える朱莉。
先ほどの仕返しを達成し尊は満足していたが、隣に座る友人たちがこの状況をほっとくことわけがなく。
「おー、大胆だねみーくん!」
「お前がやらせたんだろ」
「そうなんだけど、まさか本当にやるとは思わなかったよ」
「俺も尊にはそんな度胸ないと思ってたからな」
おかしそうに笑う二人を睨むが更に笑い声に火をつけるだけだった。
ひとしきり笑うと陽菜の興味は朱莉へと移る。
「やっぱりあーちゃんの照れてるところ可愛いなあ」
「あの……吉沢さん人前であまりくっ付くのは」
「もう、吉沢さんじゃなくて陽菜だってばー」
「ひ、陽菜さんあまりくっ付かな――」
「陽菜って呼んでくれた!やったー!」
「………」
太陽のように輝く笑顔で喜ぶ陽菜。
朱莉は疲れたのか瞳が淀みだしていた。
気持ちはわかると尊はうんうんと頷く。
しばらく陽菜が朱莉を愛でて時間が過ぎていった。




