11話
「ミコト、これとかどうだろうか?似合いそうだぞ。」
屋台のアクセサリー屋さんで、ディートリッヒがそう言って見せてきたのは深い青のイヤリングだ。
確かに良さそう。どっちかというと暗めって言うか落ち着いた色の方が好きなんだよね。ネイビーのドレスかピンクのドレスかって聞かれたらネイビー選ぶくらいには。
「確かに!センスいいね。」
この前のお小遣いが余っていたから、ディートリッヒひ多少渋い顔をされながらもそのイヤリングは自分で買った。
「そういえば、ミコトは俺のこと名前で呼んでくれないよな。」
街を歩いている途中、ディートリッヒが突然そんなことを言い出した。
「え、まあ…。長いからねぇ、ディートリッヒって。」
「じゃあ、何か短めのニックネームつけてくれないか?」
ニックネームか…。私あんまりこう言うの得意じゃないんだけどね。
「じゃあ…リヒとかどう?」
「リヒ…え、いいな。短いし呼びやすい。」
街に行くと、一瞬で聖女と王太子だとバレてしまう。
「聖女様ー!」って言う声があちこちから聞こえてくるんだけど、あまり期待しないで欲しいんだよね。って言うのも、治癒魔法以来、聖女の術は成功していないの。“浄化”と“祝福”を覚えているんだけど、成功はしていない。
「正直言って、聖女の術が不振なのに聖女聖女言われるとねぇ…。」
「そうなのか?」
「うん、治癒魔法は問題なく魔法陣展開できてるんだけど、浄化とかはできないんだよね。ほら、『浄化!』」
そう言って、浄化を試してみるけど魔法陣の1番外側の円が一瞬現れただけで消えてしまうし、治癒魔法の時みたいに体の中心が熱くなったり、光が出たりもしない。
「もしかしたら何か条件があるのかもしれないな。」
そんなことを話しながら歩いていると、前方が騒がしくなってきた。
「何かあったのかな?」
「さあ…。ちょっと行ってみるか。」
前に歩いていくと、こっちに向かって走ってくる人が増え始めた。そのうちの1人が私たちに向かって叫び出した。
「そこの貴族さんよ!逃げた方がいいぞ!魔物が発生している。」
「魔物…?」
「かなりまずいな。討伐しないと行けない。」
すでに見廻らしき騎士さんが何人か魔物と戦っていた。
「加勢する!」
「で、殿下!魔物はあちらの方から出現しております!」
リヒはすぐさま腰の剣を抜いて騎士さん達と一緒に魔物と戦い始めた。でも、少し先からどんどん魔物が湧いてきているの。
何かできることはない?こう言う闇系のやつに特効の魔法とか、聖女なら使えるんじゃない?漫画やゲームじゃよくあるもん。
足が震えながらも頭をフル回転させて考える。ひとつだけ思いついたことがあった。
“浄化”ならどうにかできるんじゃない…?
護衛の騎士さんを連れて、私は魔物が湧いているところまで少しずつ近づいていった。