再啓
──生きるも死ぬるも、
ただ一つの偶然と思えば。(シモツケ)
一通、手紙をもらった。美しく、散ってください、とある。美しく、散る。それができるのは、花、いや、花は本当に美しく散るのであろうか。枯れる、萎れる、この二つのうちの、どちらかによって、死に果てた花というのは、美しきものなのだろうか。そこには、ある種の秀美さがあるが、純美ではない。ひとつまみの、デカダンスが、混じっているのである。
然るから、美しく散るなど、不能なのだ。
アジャラカモクレン、シッサクユウク、アララ結局無駄ニナル、罪禍デ縛ッテ縊死シマショ、セ・ラヴィ、テケレッツのパア。
フェンスに、ふくろうであろうか、ミミズクであろうか、鳥が留まっていた。
ホウ、ホオウ、ホ、放浪。汝、放浪す吾を食み給へ。そう唱えながら恐る恐る近づいてみると、ほんの僅かながら、けらくを感じた。喰い殺される。歩み寄ると、フェンスに片方の手袋が引っ掛かっていた。恐らく、右手用である。
酒屋に入ると、火花が散っていた。喧嘩である。
「どうせ、おめえには分かんねえんだろ!」
「何を言う。てんめえ、──」
喧嘩の内容に対しては、全く感情が湧かなかった。喧嘩の中での、罵り合いが、見たかったのだ。
「帰れ! 帰れよ!」
面白かったのは、それだけであった。あとは、下らんことを言い合うのみで、ユーモアなんて、一切なかった。帰宅を促した、怒号不男は、なかなかユーモラスで、実に傑作であった。
私は、酒屋の三軒隣の床屋を過ぎた辺りで、振り向き、
「馬鹿め」
と言い、
「不毛だぞ。頭もな」
と、嗤ってやった。
アジャラカモクレン、許サレヌ、汝ヨ汝ヨ、テケレッツのパア。
夜道を歩いた。街灯は望月のようであり、望月は、照っていた。
「なあ、返事をくれない、というのは、へっ、酷くねえかい? たしかに、君からの手紙には少ししか触れず、その文章も、殆どは批難のものであったが、一通くらいはくれてもいいんじゃねえのかい。ああ、それとも、食っちまったかい? 君は、きっと白ヤギさんだろう。僕は、黒山羊だろうね。
しかし、やっぱり酷くねえか。切手やら、葉書やら、そこまで高いもんでもねえし、一通したためるくらいの時間なら、すぐ見つかるだろう。なあ、一言くれりゃいいから、一通くらいは、よこしてくれんかい?」
どうやら、独り言ちた私は、運が良いようだ。三日後、一通の手紙が届いた。一葉の葉書であったが、そこには、知らぬ名前が書いてあった。
「拝啓。貴方様は、きっと私のことなど、ご存じないでしょう。私も、貴方様のことを、少ししか存じ上げておりません。お顔も知らぬというのに、このような葉書を送りつけてしまったことを、お許しください。(中略)詰まるところ、お前の所為で、死んじゃったんだ。謝れ。償え、死ね!」