表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

再啓

作者: 梅田 絡迷


   ──生きるも死ぬるも、

     ただ一つの偶然と思えば。(シモツケ)



 一通、手紙をもらった。美しく、散ってください、とある。美しく、散る。それができるのは、花、いや、花は本当に美しく散るのであろうか。枯れる、萎れる、この二つのうちの、どちらかによって、死に果てた花というのは、美しきものなのだろうか。そこには、ある種の秀美さがあるが、純美ではない。ひとつまみの、デカダンスが、混じっているのである。

 然るから、美しく散るなど、不能なのだ。

 アジャラカモクレン、シッサクユウク、アララ結局無駄ニナル、罪禍デ縛ッテ縊死シマショ、セ・ラヴィ、テケレッツのパア。

 フェンスに、ふくろうであろうか、ミミズクであろうか、鳥が留まっていた。

 ホウ、ホオウ、ホ、放浪。汝、放浪す吾を食み給へ。そう唱えながら恐る恐る近づいてみると、ほんの僅かながら、けらくを感じた。喰い殺される。歩み寄ると、フェンスに片方の手袋が引っ掛かっていた。恐らく、右手用である。

 酒屋に入ると、火花が散っていた。喧嘩である。

「どうせ、おめえには分かんねえんだろ!」

「何を言う。てんめえ、──」

 喧嘩の内容に対しては、全く感情が湧かなかった。喧嘩の中での、罵り合いが、見たかったのだ。

「帰れ! 帰れよ!」

 面白かったのは、それだけであった。あとは、下らんことを言い合うのみで、ユーモアなんて、一切なかった。帰宅を促した、怒号不男は、なかなかユーモラスで、実に傑作であった。

 私は、酒屋の三軒隣の床屋を過ぎた辺りで、振り向き、

「馬鹿め」

 と言い、

「不毛だぞ。頭もな」

 と、嗤ってやった。

 アジャラカモクレン、許サレヌ、汝ヨ汝ヨ、テケレッツのパア。

 夜道を歩いた。街灯は望月のようであり、望月は、照っていた。

「なあ、返事をくれない、というのは、へっ、酷くねえかい? たしかに、君からの手紙には少ししか触れず、その文章も、殆どは批難のものであったが、一通くらいはくれてもいいんじゃねえのかい。ああ、それとも、食っちまったかい? 君は、きっと白ヤギさんだろう。僕は、黒山羊だろうね。

 しかし、やっぱり酷くねえか。切手やら、葉書やら、そこまで高いもんでもねえし、一通したためるくらいの時間なら、すぐ見つかるだろう。なあ、一言くれりゃいいから、一通くらいは、よこしてくれんかい?」

 どうやら、独り言ちた私は、運が良いようだ。三日後、一通の手紙が届いた。一葉の葉書であったが、そこには、知らぬ名前が書いてあった。

「拝啓。貴方様は、きっと私のことなど、ご存じないでしょう。私も、貴方様のことを、少ししか存じ上げておりません。お顔も知らぬというのに、このような葉書を送りつけてしまったことを、お許しください。(中略)詰まるところ、お前の所為で、死んじゃったんだ。謝れ。償え、死ね!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ