修羅場好きとしましては。3
.
捕らえられている女が
「沙也子先輩!助けて!あたし関係ないんです!本当です!!お願い!!」
と叫びだした。
真一もようやく動けるようになったのか、起き上がり、
「さ、沙也子・・、違うんだ・・、誤解・・しないで・・・」
「何が違うの・・?」
沙也子がぼんやりとした表情で呟いた。
「何が誤解なの・・?」
「こ、こいつとはなんでも・・、なんでもない・・・から・・」
「そ、そうよ、あたし真一とはなんでもないし、強盗なんて知らない!」
「なんでもないのに呼び捨てにするの?中川さん、新車400万近くしたって言ってたわよね?彼氏に買って貰ったって・・。真一君、買ってあげたの?」
「ち、違うんだ・・それは」
真一が言い訳しようとすると、仙道先輩が顎をクイッとさせて、何かを指示した。
真一を捕まえている先輩の舎弟が「ほんとのこと言えやこのクソ野郎が!」と真一の首を締め上げた。
「うっぐぅ・・!」と真一は苦しがり、慌てて「そうです!そうです!買いました!」と白状した。
「その300万は・・何に使う気だったの・・・」
「しゃ、借金があって、今日中に返さないとオレヤバいんだ・・!い、一時的でいいから・・!」
「なんで・・?なんでそんな借金なんてあるの・・!?あなたここ一年あたしに一円だって生活費入れてくれなかったじゃない!!」
「沙也子・・、沙也子ぉ、・・ゆ、許してくれよ・・・、な?な?」
惨めったらしい真一の懇願に、
「警察に逮捕されればヤバい目にあわなくても済む。よかったじゃないか」
仙道先輩が冷たく言い放った。
遠かったパトカーのサイレンがハッキリと聞こえ始めた。
「逮捕・・?・・・イヤだ、・・イヤだ・・!イヤだあぁっ!沙也子ぉ、沙也子おぉ!許してくれよおぉ!助けてくれよおぉぉ!!」
泣きわめく真一。
隣で女も泣き出した。
「山本と村井は置いていくからあとは任せていいか?東雲」
「はい。ありがとうございました」
私は最後にもう一度お礼を言い、仙道先輩は自社ビルに入って行った。
パトカーのサイレンはどんどん近づいてくる。
「・・・あたしって・・本当にバカ・・」
沙也子の声はパトカーのサイレンに紛れて、独り言のように聞こえた。
二人は「捕まりたくない」「許してくれ」と懇願しているが、沙也子の耳には届いていないだろう。
沙也子はただうつむいて、涙は歩道のレンガを濡らしている。
レンガの色は沙也子の涙で朱色に変えられ、パトカーが二人を連れて行くまで、歩道は沙也子の涙で濡れていた。
警察で事情聴取を受け、その後、沙也子も私もハイエナスタッフも解放された。
真一と、沙也子を "先輩" と呼んだ中川という女は身柄を確保されたまま、のちに逮捕となった。
中川は去年入社の、沙也子と同じ総務の後輩だという。昨年の忘年会が真一の営業部と合同になり、紹介しあったのだと沙也子は言っていた。
『一年前から一円だって』
その時から付き合っていたのだろう。
店に戻ると経営者の洋平先生が「いったい何があったの!?」と迫ってきた。
私は洋平先生をハイエナスタッフに任せ、沙也子をアパートではなく実家に送り届け事情を説明した。
あれから、沙也子は実家に戻り、家から近い職場に転職して頑張っている。
真一は実刑をくらいそうだ。
400万は真一の両親から沙也子の口座に返されたが、謝罪はなかったという。
沙也子も沙也子の両親も、関わりになりたくないからそれでいいと言っていた。
沙也子は結婚よりいまは人生を楽しむことにしたと笑顔で話してくれた。服を選んでほしいと頼まれたことは近いうちに実現するだろう。
洋平先生が新しい人生の門出に、ワンピースをプレゼントすると言ってくれた。
私はそんな洋平先生のお店で、これまでと変わらずに店長として働いている。
そして、店のハイエナスタッフは
「え?浮気?」
「それっぽいんですよねぇ」
「よかったらお話、お聞きしますよ」
「話せば気持ちも楽になることもありますから!」
「その上で女っぷりをあげるお手伝いさせていただきますわ!」
「今までとは違う魅力を私達が引き出して差し上げます!」
今日もお客様との会話に修羅場のニオイを嗅ぎとろうと精をだしている。懲りねーなコイツら。
ウインドウから見える外は厚手のコートを着込む人が増えた。
もうすぐ冬が来るのだろう、そんな季節の出来事だった。
end




