修羅場好きとしましては。2
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沙也子は大きく目を見開いて
「真一君・・?」
と、呟いた。
「沙也子、ごめん!ほんとにごめん!オレが悪かった!だから出ていかないでくれ!オレの側にいてくれ!オレ、沙也子じゃないとダメなんだ!!」
直角90度の頭の下げかたは営業職らしい謝罪の仕方だな。
「ふざけてんじゃねえぞ、てめぇ。出ていくのはてめぇだろうが?ああ?」
このセリフは私ではない。
「何が側にいてくれだぁ?金もまともに出せねぇクズが!」
これも私ではない。
「使い込んだ金返せや。わかってんのか、こらあ?!」
そろそろ止めろ、スタッフ三名。
男を取り囲んで仁王立ちはショップスタッフにふさわしくない。
「殴っても蹴ってもかまいません!それで許してもらえるなら!ほんとにオレ・・・!!オレ・・、沙也子を失った人生なんて考えられないんだ!!」
口元をギリッと結び、涙をこらえている男の姿。
「真一君・・ほんとに・・?」
「ほんとだよ・・。信じてもらえるまでオレなんでもするよ・・!家事だってなんだってするよ・・!!」
「真一君・・・」
「だから、帰ってきてくれよ・・」
真一という沙也子のボンクラヒモ彼氏の両目から、とうとう涙が溢れた。
沙也子は嬉しそうな照れくさそうな顔をしている。
元に戻るんだろうか?
「結ちゃん、あたし・・真一君ともう一度話し合ってみる」
沙也子がハッキリとした声で言った。
「そう・・」
沙也子のボンクラヒモ彼氏は私を前にして、
「申し訳ありませんでした」
と、頭を下げた。
沙也子とボンクラヒモ彼氏真一は帰った。
300万の入った封筒を残して。
私は沙也子のスマホに電話をしようとした。
が、その前に
「すみません!」
ボンクラヒモ彼氏真一が戻ってきた。
「あの、沙也子が300万の封筒忘れたって・・!」
「それなら沙也子に取りにこさせるか、私があとで直接沙也子に届けるわよ」
「オレ・・、やっぱ信用されてないですよね」
真一はしゅんとうなだれた。
「当たり前だ」
「何言ってんだ」
「ずーずーしい」
スタッフ三名が追い討ちをかける。
「いま沙也子に電話するから」
私はスマホで沙也子に電話するため、手にしていた300万入った封筒をカウンターの上に置こうとしていた。
そこへボンクラヒモ彼氏真一が私を突き飛ばし、封筒を奪い取ってダッシュで逃げたのだ。
私はバランスを崩し倒れ、私を支えようとしたスタッフも倒れてしまった。
「へっ!ざまあみやがれ!いつもオレをバカにしやがって!」
真一が振り向き様叫んだ。
私はすぐに立ち上がり追った。
ぶっ殺す!!あの男!
わたしは走った。5センチヒールもなんのその。
真一も必死で走る。
その時わたしはある人物が車から降りるのを見た。
こんなラッキーはない!神様ありがとう!
黒のコートにオーダーメイドのチャコールグレーのスーツはイタリア生地で仕上げた高級品!
天然カッコつけ男!某組織の若頭!
わたしは彼に向かって叫んだ。
「仙道先輩!!そいつドロボー!捕まえて!!」
わたしの声に気がつき、すぐさま、仙道先輩が動いたのがわかった。
真一は道を塞がれたのを知って
「どきやがれ!!」
と、殴りかかったが、仙道先輩の護衛にとっつかまり地面に叩きつけられた。
「真一!」という悲鳴に近い声で、赤いスポーツカーから降りてきた女が真一の側に駆け寄ってきた。
「なんてことをするのよ!」
沙也子じゃない女。
「真一!真一!しっかりして!」
呼び捨てで叫んでる女は甲高い声で次にこう言った。
「あんた達を警察に訴えてやる!!」
追い付いた私は女と真一のすぐ側に立った。
「やってみな。そいつは強盗犯だ。うちの店のお客様のお金を奪って逃げたんだから」
女とつるんでたのか?
まさか最初から300万狙いの計画してたのかこいつ。
「強盗?」
仙道先輩が厳しい表情で私に聞き返した。
「そうです。お客様の資金300万の封筒を私を突き飛ばして強奪しました。私とスタッフが転倒しケガをしています」
「三上、警察に連絡してやれ。山本、村井、警察が来るまで捕まえておけ。その女もな」
仙道先輩の舎弟が素早く二人を取り押さえた。
「何すんのよ!あたしは関係ないわよ!」
女が暴れだし、ひたすら関係ないと口走る。
「仙道先輩、ありがとうございました」
私は先輩と護衛の男性にお礼を言い、未だに道端にうずくまっている真一と否定を続ける女を睨んだ。
「ケガは大丈夫なのか?」
「はい」
「店は?」
先輩がわたしの後ろを見ている。
「スタッフがいますから」
私は微笑んだ。
「いや、確かにいるが・・後ろに」
「え?」
「人生終了な終わり方ですね」
「店長足はやーい」
ハイエナスタッフ二名が後ろにいた。
「!?」
それでも一人だけは残してきたのか。それならいいか。
「修羅場好きとしましては、最後まで見届けないと気持ち悪いですから」
よくない。残りの一人もいた。
「お前ら、店・・!」
「店は洋平先生がいるから大丈夫ですよ」
ハイエナスタッフ全員集合どころか、
「真一君・・なんで中川さんが・・?」
沙也子までいた。