修羅場好きとしましては。1
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私には2歳年下のいとこがいる。
結婚間近と言われる彼氏との付き合いはすでに五年を過ぎ、親族の間ではまだかまだかと話題になるのもしばしばだ。
そんな彼女が、私が店長を務める某洋服のブランドのショップを訪れた。冷えた日が続いた秋の日だった。
「珍しいわね」
「うん、服のことで頼みたいことがあって」
ジャケットにトレーナー、ジーパン。ジャケットとトレーナーはたぶん彼氏のお下がり。
いとこは二年前に結婚資金を貯めるとの理由で、彼氏と同棲を始め、実に質素な生活をしている。
自分の服にお金をかけることはめったにない。
友人の結婚式に出席するときも、冠婚葬祭用の母親の黒いツーピースがサイズが合うからと言って着用していく。
それを悪いと言っているのではない。
ただ、もう少し自分にお金をかけてもいいのではないかと、私は思っているだけだ。
「結ちゃん、あの・・」
いとこは言い淀む。
もしかしてアドバイスだけほしいのかもしれない。
「いま持ってる服でアドバイスが必要なら、アパートに行くけど」
「300万あるの!これで服を何点か選んでもらえない!?」
いとこが両手でつかんだ分厚い封筒をつきだして叫んだ。
「もちろんですわ!」
「私達が完璧なコーディネートをいたします!!」
「靴やバッグ、アクセサリーも完璧にお選びします!!!」
店内にいたスタッフ総勢三名が群がってきた。
ハイエナかお前らは。
「・・・。まって。落ち着きましょう、沙也子ちゃん」
「・・・だめ?かしら・・」
沙也子はうなだれた。
「ひどいわ店長!」
「そうよ!せっかく彼女が美しくなろうとしているのに!」
「それとも私達の腕が信用できないとでも?!」
お前らも落ち着け。つーか、人のいとこをカモろうとすんな。
「まずはその動機から聞きましょうか」
300万はおそらく結婚資金の一部。
何があった。
「やだわ、店長。ここは警察じゃないのよ」
「そうよそうよ」
「何を勘違いしてるのかしら」
うるせーなコイツら。
私といとこのまわりをウロチョロするスタッフ三名が愚痴り始めた。
「・・ごめんなさい・・・帰るわ」
「あー!待って待って!」
「帰ることないわ!」
「私達に任せてくれたら最高のコーディネートをお約束しますから!!」
こいつらホント、ハイエナ。
「沙也子、その300万は結婚資金の一部でしょう?あんなに一生懸命貯めてたのを知ってる私としては『はいそーですか』と気軽に使わせるわけにはいかないのよ」
スタッフ、さすがに黙った。
「結ちゃん・・・」
沙也子は涙目で私を見上げる。
なんせ私は身長175センチ+5センチヒール。対して沙也子は身長150センチにスニーカー。
私は沙也子をカウンターの椅子に座らせ、スタッフはコーヒーをいれてくれた。
「結婚、やめたの」
沙也子はポツリと言った。
「アイツが原因ね?」
沙也子はコクリとうなずいた。
「貯めてた結婚資金・・、700万あったの・・・」
さてはアイツ使い込んだな。
「気がついたら・・300万しか残ってなくて・・・先月確認したときはちゃんと・・」
やっぱり。
「問い詰めたら・・二人で貯めたものだから半分はオレのもんだろって、」
「半分はって、その資金、ほとんどあんた一人で貯めたもんでしょ?」
「・・彼は生活費入れてくれてるから・・・」
「生活費?たかだか三万かそこらよね。アパートの家賃だってあんたが払ってるんでしょ?」
「アパートは契約者があたしだから支払い義務はあたしにあるからって・・」
「ようはヒモですね」
「サイテー」
「絞め殺したい」
絞め殺したいは私も賛成だがスタッフ三名よ、
「あんた達は仕事をしなさい!!」
「えー!?」
「いまお客様いないしぃ」
「修羅場好きとしてはこのチャンスを逃すわけには」
コイツらマジ、ハイエナ。
「あたしがバカだったの・・」
「そうね」
「店長ひどーい!」
「そんな言い方しなくても」
「知ったかぶりはよくありませんよ」
「やかましい!!」
本当にコイツらは・・。
誰がコイツらを雇ったんだ。
沙也子はコーヒーカップを両手で持った。
冷えた両手を暖めれば、冷えた心も暖まると思ったかもしれない。
「結ちゃんは割りと早くから気づいていたのよね。何度か注意してくれてたもの・・」
「初対面の印象が悪かったからね」
引っ越しを手伝いに行った時、沙也子の彼氏を紹介されたが、その場で二階から突き落としてやろうかと思ったくらいに印象は悪かった。
『あー、手伝いいるならオレ要らなくね?』
『ダメよ、真一君の荷物はあたし達じゃダメでしょ?』
『いいよ。テキトーに開けて』
と、言われたもんで、
『おい、てめーの荷物くらいてめーで片付けろや。大学出ても小学生なみの知能しかねえのかよ』
と言ってしまった。
この時から嫌な予感はしていたのだ。
「もう・・いいの。全部忘れて自分の人生考え直してみる」
沙也子は両手で持ったコーヒーカップをみつめている。
「過ぎた五年は戻らないけど、これからまだまだ長い人生だよ。五年で気づいてラッキーだったかもしれない」
こんな言葉、慰めにもならないけれど。
沙也子は私の顔を見て、
「そうよね、ほんとに・・そうよね・・・」
涙をこぼした。
店のドアが開いた。
お客様かなと、私達は振り向いた。
「沙也子!!」
ヒモ男来やがった。




