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消える流れるすり替わる  作者: 羊毛
3.辿れない糸口
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午後は泥沼(4)

「何か言う事は?」緑色のけばけばしい炭酸飲料を手に戻ってきたダンに、青は詰め寄った。


「見つかって良かった。誘拐されたかと思った」

「そして?」

「そして?」とダンも返した。「俺がいかにしてお前を探すために無駄足を踏んだかいちいち聞かせて欲しいのか?」

「ほしくないですね」

「じゃあ以上だ。ちょっと電話を……」ダンは携帯電話を取り出して、短縮で誰かに繋ぎ、「見つかりました。はい。はい。黒猫さんにお礼を」と言って切った。


「黒猫?」青はテーブルをバンと叩いた。ダンは首をすくめて怯えた。


「なんで黒猫が出てくるわけ?」

「俺が呼んだんじゃない」

「そうでしょうとも」

「お前が見つからないからまさめに協力を頼もうとしたら、あの馬鹿が携帯を持っていなかったから岸に電話をしたら、たまたまその傍に黒猫がいてお前が行きそうな場所を俺に教えてくれたんだよ分かったか」

「分っからないね」

「君達怖いよ」とリンが口を挟んで茶化した。無視された。


「今、怒るべきは俺であって、お前じゃないと思うんだが、どうだろう」ダンはぼそぼそと言った。

「言いたい事はそれだけか」

「お前から俺に言う事があるんじゃないのか」とダンも強気だった。

「言う事なんかないね。聞きたいことならあるんですけど山ほど」

「あっそ」ダンはストローをくわえた。「じゃ、聞けよ」

「態度悪いよあんた」

「お前だろ。なぜこんな所にいるんだ」

「今、私が、あなたに、質問しようとしてるんです。あなたは黙りなさい」

「勝手にしろ」

「じゃ聞きますけど」青はダンの手元からメロンソーダをもぎとって、「端的に言いまして私はあなたの道具なんですか。あなたがお父さまにご自分を売り込むための手札ですか。あなたはそこまでしないとお父様の好意を勝ち取る事ができないと信じているんですかそれとも出来心だったんですか。本心なんですか初めからそのつもりだったんですか。あなたは私に限ってこんなふうに利用するんですかそれとも他の女の子が君を好きだと言ってもやっぱりそういうふうにあしらうんですか単に照れてるんですかそれとも死にそうにうざいと思ってんですかむしろ死ねと思ってるんですか何とも思ってないんですかどうなのか、はっきり、お聞かせいただこうと、思うんですが」

「わけ分かんないよ」

「わけ分かんないね」

 ダンとリンが口々に言った。


「なんのつもりで呼び出した」

「なぜ、そこで柾が出てくるんだ?」

「まだとぼける気か」

「俺は」ダンはためらった。「ただお前を呼んだだけだ。そうしたいと思ったから。柾に売り込むっていうのは何の話なんだ?」

「本気でとぼけ切る気なの?」

「とぼけてるんじゃなくて本当に分からない」ダンはメロンソーダを早く返して欲しそうな顔で、「何か誤解してないか? もしかして柾に会ったのか?」

「会いましたよ。そこの駐輪場で」

「で、何て言われた?」

「何も。あ、男はケダモノだって」

「それで? 男がケダモノだと急に俺に会いたくなくなるのか?」

「どうしてそうなる」

「俺が聞いてるんだ」

「ふざけんなよ馬鹿野郎」青は泣き出しそうになった。「あたしを、柾さんに、ハナダの元ボスとして会わせるために呼んだんでしょう? 黒猫さんまで引っ張ってきて……なんで、言ってくれなかったんですか。初めにそう言ってくれれば、断ったりしないのに、騙すような真似をして……!」


「柾からそう聞いたのか」ダンは思いっきり白けた顔をした。


「誰からでもいいでしょう」

「良くない。誰がそのデマを流した? それによって俺が今から射殺する相手が変わるんだから正しく答えてくれないと困るんだ」

「岸さんですけど。どこがどうデマだったんですか?」

きし実生みしょうだな。分かった、メロン返せ」ダンは素早く手を伸ばしてコップを奪還した。「一から十までデマだ。もう忘れろ」


「忘れろったって……」青もだんだん自分が仮定を間違ったんではないかと思い始めた。「私にはよく分からないのですが」


「ズゴズゴズゴズゴ」ダンはあっというまにコップを空にして、立ち上がった。

「どこ行くの?」とリン。

「先週殺しておくんだった……いや、あとでいい」ダンは思い直してまた腰を下ろした。

「落ち着きの無い人だね」リンは面白そうに言った。

「これが落ち着いていられるか。何もかも、ぶち壊しやがって、あの変態とあの妖怪。柾がここまで来てたから、岸のデマを信じたんだろ?」

「ええ?」青はぼうっとしていた。「ああ、そうだったかな」

「まだこの辺うろついてるのか、あの男は」

「知らない。でも、また夕方、って言ったら、うなずいてたから、夕方頃また現れるんじゃないかな……」


「場所、変えませんか」ダンはまた立ち上がって少し丁寧に言った。「首都辺りまで戻りませんか。二人で」

「いや……」青は急いで考えた。「ダンも疲れてるだろうし、今から突然二人じゃ疲れ果てるよ。リンと三人でおやつにしよう」

「あ、そう。うん、そのほうが俺もいい」ダンはあっさりまた座り直した。

「やれやれ」リンは肩をすくめた。「僕は君達の道具かい? 手札かい? クッションかい?」

「友達だよ」青はめんどくさそうに言った。

「そうそう」とダンも言った。


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