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序
あいつ家出したんだって。妹と二人で。
家出したんだって。でも、失敗したんだって。バッカじゃない。行く当ても無いのに、よく考えもしないで、妹まで連れてって。しかも、
一人で帰ってきた。
二人で行ったのに、一人で帰ってきた。
どこで何してたんだか知らないけど。
川に落ちたんだろう? 川にねえ。
あいつ見てたんだってよう、妹死ぬところ。
黙って見てたんだってよう、おい。
立ち入り禁止の場所だったって。
チェーンまたいで入ったんだって。
そしたら妹死んじゃったんだってさ。
その、危険な場所で、何をしていたのか、あいつは答えられなかったって。今でもきっと答えられない。忘れたんだってさ、きれいさっぱりと。何聞かれても、答えられやしない。覚えてたとしても、あいつはもちろん答えられないのさ。
そして答えないという事は、答えたという事と同じじゃないか。そうだろう?
聞いたかい、聞いたかい。
五雁正は、「妹殺し」だってよう。




