えぴそど98 ダン目-的
「それは、ポーションですか?」
俺はジャクシンさんが取り出した赤いポーションを見つめた。見た所で特別なものなのかどうかは全く分からない。
「特に名前がある訳では無いが……コースケは知らないだろうが、一昨年前よりオライオス地方の北部では伝染病の被害が深刻だったのだ。」
「伝染病…あんまり土地勘が無いんですが、ブーメルムは南部になるんですよね?」
俺はここまでの話から細菌概念がある事に多少驚きつつも、よく考えたらこの世界の地図が頭の中にほとんど無い事を改めて感じた。
「そうだ。北部は主に獣人種が多く暮らしている地域なのだが、風邪の様な症状が続き、高熱と咳による体力低下で死に至る症例が増えていた。」
「風邪…(インフルエンザの様なもんかな…)もしかしてアルネロの故郷とかかい?」
「………まぁ…な……。」
アルネロは複雑そうな表情をしながら答えた。
「そういうのって回復魔法とかでぱぱっと治療できたりしないものなんですかね?」
「最上級レベルの魔法なら肉体的な回復を促す分効果も見られるだろうが、基本的に病気に関するものは賢者でも無い限り完全回復とはいかない。」
俺は『蘇生魔法ってあるんですか?』と聞こうとしたが野暮な内容だと気付いた。
「そもそも下民や末端の市民の病気にまで手を回せる程、上級回復を使える術士は多くない。そこを補うのが医師や錬金術師等の薬学に精通した者だ。」
「きほんは "もりにあるやくそう" をせんじてのますくらいのしょちしかしていないぞ。」
「なるほど。病気の事は分かりましたけど、それにハピスさんがどう関わってるんです?」
「そもそも、ハピスがアスタリアへの入国を希望した理由が伝染病の治療の為だ。もちろん当初は伝染病すら帝国の仕業では無いかと疑いもあり、神真機関出身の彼女は捕縛対象にすらなったのだが、彼女は自身の首に従属の首輪を付ける事で審査を通っている。」
「え、トモが付けてるやつですよねそれ。誰かの奴隷みたいな状態って事ですか?」
従属の首輪。
最初はテイムした魔物の証明だと聞かされていたが、人用の物もあり、奴隷などに使われていた。
「そうだ。今はお父様の側近に隷属している状態だ。だが、彼女が処方した薬は尽く高い効果が見られ、更にアスタリアには無かった様々な効果のポーションのレシピを提供した事により、今は比較的自由に行動している。」
「じゃぁ注意するも何も完全に良い人じゃないですか。」
「アホウかきさま。ていこくのにんげんがそこまでするからよけいにもくてきがわからないんだろうが。へたしたら "きみつろうえい" でていこくにもねらわれるんだぞ。」
「今この話を知っているのはお父様に近い者と私とアルネロ、先日フルブライトにも伝えたが、後はコースケだけだ。くれぐれも外にこの話を出すな。」
「わ、分かりました。でも、メイエリオやユージリンに戦い方を教えてくれてたり、今回だってダンジョンの同行をしてくれているのを見ると、やっぱりハピスさんは良い人に思えます。」
俺の素直な感想だ。
ただ、気になるとすれば盗賊に捕まっていた事。
ヤッパスタから聞いた話によると、彼女が一人で森をウロついており、捕まえて奴隷商人に売ろうとしたらしい。
ハピスさんの戦闘能力を考えれば、一人でもあの盗賊団を圧倒できたはず。
素直に付いて行った目的が分からない。
家に戻ったら、一度ハピスさんと話をしっかりするべきだろうか。
「ジャクシン様!!お迎えに上がりました!」
林の方から兵士が顔を覗かせていた。
「ふむ、一先ずハピスにどの程度信を置くかはコースケに委ねるとしよう。しかし、帝国の、それも最も危険な思想を持っている組織の出だと言う事だけは留意しておけ。」
「分かりました。」
「ジャクシンさま、まいりましょう。」
「ああ、そうだな。さぁ切り替えて帰ろうじゃないかコースケ。改めて初ダンジョン制覇おめでとう。」
「あ、ありがとうございます!」
横で冷たい視線を送ってくるアルネロを他所に、俺はジャクシンさんの言葉に素直に喜び馬車へと向かった。
◇
「だあーーーー!!!もう無理だ!無理無理!ユージリン!援護してくれ!!!もたねぇ!!!」
「待ってくれヤッパスタ!こっちだって…うぉ!!このやろー!!」
「やっばい!ユージリン!やばいって!ヤッパスタが囲まれちゃう!」
「くっ!もう少しだ!もう少しで!!」
「みんなーふぁいとー。」
「「ハピスさんも手伝ってください!!」」
「え?いやーほら、私がやっちゃったら鍛錬にならないかなーってさ。てへ。」
「ぐほぉぅ!!」
「ヤッパスタ!!!」
「ハピスさん!!」
「んもーはいはい。みんな離れてねーふっとばし技を使っちゃうよーそりゃー!」
〈中級槌スキル マーズインパクト〉
「ぐああああーーー!!!!!」
「あ、失敗失敗(笑)標的間違えちゃったーごめんねー。」
「「ヤッパスタぁぁぁぁ!!!」」
とあるダンジョン
冒険者達の叫び声が響き渡っていた




