えぴそど96 ダン鎌-切
咄嗟の事で何が起こったか把握しきれていない俺の目はキメラの目と合い、見つめ合う状態になっていた。
「えっと…。」
俺は鎌化した槍をキメラから引き抜いた。
ブシャー
キメラの腕と足から血が吹き出す。
「ォォォオオォオォオォ!!」
「メロメロメロメロメロメロォ!」
「ボォゥゥゥウゥゥゥゥウゥゥ!」
3つの頭それぞれが悲痛な叫びを上げだし、身体をよじりながら怒っている様に見えた。
そのまま、キメラは準備していた火の魔法を放つと同時に、別の腕から魔法陣の展開が始まり、次の攻撃準備が行っていく。
「くそ!そういう系かよ!」
火の魔法はまるで火炎放射やブレスの様に、継続的にこちらに向け放たれている。
幸い、無機質な地面で燃え続けるものでは無かったが、近づけば熱気を感じる分、当たれば火傷どころでは済まないかもしれない。
「それより!これ!なんで!?」
キメラの攻撃よりも、手元にある鎌化した短槍が気になって仕方ない。
曲がった短槍からはやや弧を描く様に緩やかな曲線の魔力が留まっていた。
使用したスキルは魔力を槍等の媒体を介し増幅させ、相手に向けて高速で放つといったショット技だった。
それがまるで横から漏れている様に、形状を固定させ留まっている。
「おちつけ!かたちはいびつだが、まりょくをとどめ、ぶきをつくりだすスキルはいくらでもある!」
アルネロの言葉に反応しつつも、動揺を続けていた俺にキメラの新たな魔法が飛んできた。
「やべっ!」
魔法陣からは拳の大きさの尖った岩が無数に飛んで来た。
名付けるならストーンバレットだろうか。
これ系の技は跳ねっ返りが俺に刺さる可能性がある。
「いたたっ!」
俺は横に走りながら直撃は避けているものの、案の定、地面に辺り砕けた破片は強肉弱食には反応せず、俺の身体に絶え間なく当たる。
多少の切り傷が出来る程度で大した事は無いが、いかんせん集中できない。
「くっそ!死神!来い!!」
〈身体強化(死神)〉
俺は死神を呼び出すとそのまま自分に憑依させた。
皮膚が出ている部分が黒くなった事を確認した俺は、破片が当たる痛みも消え、キメラに向かい再度突撃した。
キメラは背中にある四つ腕全てに魔法陣を発動させ、正面から迎え撃つ体制を取った。
「それがお前のとっておきだな!!」
俺は短槍に更に魔力を込め、鎌の刃を一回り大きくし、キメラの眼前にまで迫る。
まだ魔法の発動が出来なかったキメラは左腕で殴ってきたが、強化した俺にはスローモーションに見えた。
「遅い!!!くらえぇぇぇぇ!!!!こーーーーすけぇぇぇ!!すらぁぁぁぁぁぁぁっしゅっ!!!!!」
〈我流 鎌スキル 康介スラッシュ(適当)〉
俺は鎌を横薙ぎに大振りし、キメラの一刀両断を狙った。
しかし、間合いを見誤り、鎌の背の部分に当たるとキメラは切れる事無く、押し出される様に反対側の壁にまで吹っ飛んで行った。
壁にめり込んだのか、爆風と瓦礫が飛んできており、砂煙で辺りが真っ白になる。
「どうだ!?やったか!?」
〈経験値945を獲得しました〉
「お?」
脳内に経験値獲得のアナウンスが流れた。
これによりキメラを絶命した事が分かる。
すぐに砂塵は収まり、後ろからアルネロが近付いて来た。
「どうやらたおしたようだな。」
壁にはめり込んだまま真ん中の首が吹っ飛んでいるキメラの姿があった。
「ああ!俺の新必殺技、康介インパクトが決まったぜ!」
「……スラッシュといってなかったか?」
「なななな何を言うんだいアルネロさん!こここれは最初から相手に魔力をぶつける衝撃技だぜ!」
「……そうか。なんでもいいが、なまえをさけびながらはなつのはよせ。ひとあいてだとばればれだぞ。」
「お、おう!気をつけるよ!」
「わたしはキメラのそざいをかいしゅうする。きさまはさきにちじょうへいき、ジャクシンさまとごうりゅうしておけ。」
「え?いや、俺も手伝うよ。一緒にやった方が早いだろ?」
「………きさまのことをおもっていっているのではない。ジャクシンさまのことを………まぁ、ここまできたらいっしょか。かいたいはできるのか?」
「した事はあるけど、皆に指示された場所を切った事があるだけで、解体と言うよりただの手伝いというか…。」
「ならおしえてやる。ついてこい。」
アルネロは手甲を外しその場に置くと、収納部から取り出したナイフと布袋を手にキメラの元へと歩いて行った。
俺もL字クランクに戻った曲がった短槍を置き、腰に着けていたエブリンナイフを取り出し後を付いて行く。
「さて、と…。」
そう言いながらアルネロが髪を後ろに束ねる横顔を見て、俺は少し照れてしまった。
「まずはコアのとりだしだな。」
魔物の死体に、冷たい視線のままナイフを突き刺す姿も画になってしまう。正直、顔だけで言えばアルネロは相当な美人だ。
残念ながら口調がものすごく悪く、喋り方も舌足らずでつたない為、どこか残念感が漂ってしまう。
「きいているのか?わたしをみなくていいから、ここをみろ。これがコアだ。」
「うっ…ご、ごめん。」
慌ててキメラの方を見ると、この一瞬で内蔵が剥き出しの状態になっており、どす黒い血が滴り落ちていた。
「うげ、グロ!」
「いままでも"かいたい"をみてきたのだろう?」
「いや、そうだけど。やっぱり中々慣れなくてさ…でもここで生きていくにはやっていかなきゃな。」
「はぁ……ナイフをもったままちょっとここでしゃがめ。」
アルネロは俺をキメラとの間に座らせると、俺の背中から二人羽織の様に俺の腕を持ってコアを取り出しをレクチャーしてくれた。
耳元で感じられるアルネロの息遣いが、俺の心臓の鼓動を早めていく。
同時にキメラの死体のグロさが増していき、胃から何かが出てきそうだった。
「よし、うまくとりだせたな。キメラはコアいがいうっても"にそくさんもん"だ。おくのへやのクリアほうしゅうをとってちじょうへでるぞ。」
「あ、ああ……うぉぇぇぇ……。」
二人同時に立ち上がろうとした瞬間、俺の肩がアルネロの胸を押してしまい、アルネロは足元に流れていたキメラの血で滑り、バイシクルシュートの格好で転けた。
『あ、』
その足は綺麗な円を描きながら、俺の顎をクリーンヒットし、俺はキメラの内蔵に後頭部から突っ込んだ。
舞い上がる血と贓物に、俺の胃も限界を迎え、思い切り吐いた。
俺のダンジョン初挑戦は
アルネロが贓物と俺のゲロを頭からかぶっているシーンで幕を閉じた
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