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えぴそど92 Run Deep

「アルネロ!常に視野を広くしろ!目先のモノだけに捕らわれるな!常に冷静に!そうだ!冷静に観察し好機を逃すな!!」


「はいっ!おししょうさま!」


私が師匠の元に来て4年が経っていた。

今は師匠に稽古を付けてもらっている真っ最中だ。


朝5時に起床すると、何も言われる事無く私は街へ下山し、煙草を買うと山へと走って戻って来る。


その後、朝8時に起きてくる師匠の朝食の準備を行い、師匠が食べている間に外に行き薪を割る。


「かっれぇぇぇぇ!!!」


今日もスパイスを入れ過ぎてしまった様だ。


9時を過ぎる頃には師匠と共に山奥へと進み、追跡や察知など狩りやダンジョン探索に必要な知識を徹底的に教えてもらう。


昼前には魔物を狩り始め、正午になりその肉を調理し食べると、午後からは師匠が稽古をつけてくれる。


稽古と言っても、一方的に攻めてくる師匠の攻撃を躱しながら、その動きを盗み、見様見真似で反撃する。


稽古が一段落すると、小屋に戻り師匠の風呂の準備をし、師匠が風呂に入っている間に夜飯の準備をする。


「あっちぃーーーー!!!」


今日もお湯加減を間違えてしまった様だ。


午後の7時になり、師匠が夜飯を食べている間に、私は外で筋トレと教えて貰った型の反復を行う。


人虎特有の爪を使って切り裂いたり刺したりする型が大半だが、私には戦いに使える様な爪が無い。それでも何度も何度も反復していった。


夜の10時を迎えると、完全に冷めてしまった風呂の水を使い汗を流し、寝床に入ると師匠に買ってもらった魔力の本を読む。


12時には就寝し、朝を迎える。


そんな日常を迎える事で、私の身体は強靭になり、立耳白兎族では初めとなるであろう、ワイルドエイプと言う討伐ランクCの魔物を、一人で倒せるまでに成長していた。


そんなある日。

人虎兵が持ってきた手紙を読んでいた師匠が言った。


「アルネロ、明日の朝は煙草を買いに行かなくていい。一緒に街に降りるぞ。」


「はいっ!かしこまりました!おししょうさま!」


「うむ……。」


翌朝、言われた通り師匠が起きてくるのを筋トレをしながら待ち、一緒に街を目指し走って山を下った。


街に着き真っ先に連れて来られたのは武防具屋だった。


中に入ると、奥から犬人族の職人が出てきた。


「これはこれはグオン様!お越しされると仰って頂ければお迎えにあがったものを!」


「気にしなくていい。頼んでいたものは出来ているか?」


「はい!もちろんでございます!ささっ!こちらへどうぞ。」


私は師匠の後ろに付いて行き、店の奥へと入っていく。


奥の部屋の壁には、シルバーと黒の虎柄に装飾された大きな可変ガントレットと、同柄のスカートアーマーが飾られていた。


「グオン様のご注文通り、右手には合金で設えました鉄爪を。左手には魔獣の角で作った杭を備えております。」


「おお~素晴らしい。」


「また、防具につきましてはグオン様と同様のものを小型化し、機動性重視として仕上げました。」


「うむ!うむうむ!!いいじゃないか!アルネロ、早速着けてみろ!」


「ふぇ!?わ、わたしがですか!?」


突然の事に私が驚いていると、師匠は冷たい目線で口を開いた。


「ど阿呆が!あのサイズで俺が装備できると思っているのか戯け!早く着けろ!もたもたするな!」


「は、はいっ!」


職人達に説明を聞きながら装着すると、鉄甲はずしりと重かった。


「し、ししょう。これおもいです…。」


「そりゃそうだろうな。だがそれも必要な事だ……ぷっ…はははっ!その姿!正に虎の威を借る兎だな!はーっはっはー!」


師匠は金を払う事なく店を出る。

私はまだ訳も分からず、鉄甲を着けたまま師匠の後を追う。


「おししょうさま、あの、だいきんは?」


「ああ、心配無い。気にするな。」


「でもすごくたかいはず…。」


「俺は明日から……新しく出来た軍学校に、戦闘の指導員として入る事にしたんだ。モラに契約金として鉄甲などの代金は払ってもらっている。」


「え……?」


「アルネロ、つまり俺が貴様に教えられるのは今日までという事だ。」


「……ど、どういうことですか!?」


「そのままの意味だ。貴様は充分に強くなっている。飲み込みも早い。後は教えた事を反復し、その鉄甲を使いこなせられる様に精進しろ。」


「……そんな……ししょう……。」


「最初はほんの気まぐれだった……腐れ縁のモラの頼みを聞いてやる事で、酒をタダでせがんでやろうというくらいのな。」


「………。」


「それがどうだ。貴様は弱音も吐かず一つやれと言えば十でも二十でもやる。俺が説明しなくとも自ら意を見つけ、更に高みへと貪欲に登っていった。その源となっているのが怨恨だという事が、ここに来て事更に惜しいが。」


「………。」


「そろそろ貴様の目的を果たして来い。そしてそのまま世界を見て来い。弟と妹が見れなかった分まで見聞を広めて来い。俺が言えるのはそれ位だ。」


「おししょうさま…。」


師匠は振り返ると、はにかみながら不器用に私の頭を撫でた。


「貴様はどこに出しても恥ずかしくない娘の様に思っている。たまにドジだが、それもまあ、貴様ら種族の大切な個性だったんだろう。その鉄甲は俺からのせめてもの手向けだ。存分に暴れて来い。何かあったらどこに居ても俺がすぐ駆けつけてやる。」


「う……うぐぅ………うわぅぁぁぁぁーん!!」


私は我慢出来ずに師匠に初めて抱きついた。

大きな師匠の身体を強く、とても強く抱きしめながら泣いた。


「ちょっ!!!いってぇっ!!!おい!アルネロ!?爪!爪!ケツに刺さってるって!アルネロ!?うおい!!!聞いてるのか貴様!イタタタっーーー!!!」


「うわわーーーん!!!」


私の嗚咽と師匠の叫び声が街に木霊した。





「ししょう!!」





目を覚ますと、私の腕の中で泡を吹いて白目を剥いているコースケの姿があった。


『ぶくぶく………』


どうやら過去の夢を見ながら、コースケを思い切り抱きしめ、締め上げていた様だ。鬱陶しいのでコースケをぽいっと投げ捨てると、辺りを見渡した。


私は周りを冷静に観察し、まずは魔物等の危険性が無いかを確認する。


目先に魔物の死骸が転がっていた事から、コースケが戦っていた事は明白だ。


その魔物も低階層に出る様なものでは無い。

下層、もしくは最下層近辺に出るランクの魔物。



私達はダンジョンの深部へと飛ばされている

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