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えぴそど90 Blood Sunday

弟と妹が殺された日、私も死のうと思った。


私が居た集落は老人ばかりだったが、その全てが殺害されていて、言葉通り何もかもを失った。


せめてものと穴を掘り、遺体を一つ一つ埋めていく。

そうしている間に私の中に一つの感情が芽生え始めた。


憎い

私から全てを奪っていったあいつらが憎い


一通り供養し終えると、私はボロボロなまま街に向かった。


まず働かせてもらっていた宿に行き事情を説明する。


舌を切られた所為で上手く喋れなかったが、事情を察したみんなのお陰で精一杯の治療を受け、何度も抱きしめ一緒に泣いてくれた。


特に女将さんは、自身が持つ最高級ポーションを飲ませてくれた。舌は完全に再生しなかったものの、ある程度の会話が出来る様になる。


その上で、私が奴らに復讐する為街を出たいと言うと、一つの提案をしてくれた。


「いいかいアルネロ、お前に本当にその覚悟があるなら私も協力を惜しまないさ。だけどね、どう考えたって復讐が果たせる可能性なんてちっぽけなもんだよ。それでもやると言うのかい。」


「やる…はたひにはもうそれひかなひから。」


「分かったよ…まずは人虎の長に話をつけようじゃないか。事情を説明すれば軍に入れてくれるかもしれないさね。頑固な奴の事だから門前払いかもしれなけど、私が一緒に行けば話くらいは聞いてくれるだろうさ。」


「うぅ…おはみさん…はりはとぅ…うぅぅぅぅ…。」


再び泣いてしまった私の頭を女将さんは優しく撫でてくれた。仕事仲間達は私を抱きしめながら慰めてくれた。


「安心は早いさね。本当に上手く行くかは分かりゃしないよ。……だからこっちも少し考えないとね…そうだね、私は少し席を外す。2時間で戻ってくるからそれまでここで待ってな。」


女将さんはそう言うと羽織をはためかせ外に出ていった。


────


────


────


「モモモ、モラ族長!た、たたた大変です!き、来ます!」


人虎の兵士が屋敷の扉を慌ただしく開け、息を切らしたまま報告する。


「………落ち着け。敵か?」


「おいおい、まさか人狼族の奴らか。」


「いやいや、それなら都合が良い。そのまま一手に葬って狐人族を吸収できるかもしれんからな。」


「狐人か、猫人とはまた違う色気が堪らんな。」


「想像すると興奮してきたな。そろそろ日も暮れる、久々に夜宿街に出るか?」


「いいぞ、付き合おう。」


中に居た3人の人虎の役員達は落ち着いた様子で話を進めていた。


「ち、違います!人狼ではありません!女達が!」


「…女?」


「と、とにかく外を見てください!!」


兵士が窓を開け、三人を誘導すると、敷地の入り口に大量の獣人が集まっていた。


「なんだあれは。暴動か?」


「静かだな、武器を持っている様にも見えないが…。」


「先頭に居るのは黒足猫人族の長レイレイだ。お前ら、もしかして彼奴の店で暴れたのでは無いだろうな。奴がキレたら厄介だぞ。」


「俺はそんな事してねぇよ。」


「俺もだ、第一そんな怖い事ができるかよ。とにかくどうする?」


「出向くしかあるまい…はぁ、まったく。」


────


────


────


「どういうつもりだレイレイ!これは何の騒ぎだ!」


門の所には、夜の歓楽街で働く多くの女達が集まっていた。その先頭に居るのは街で最大の売春宿を取り仕切る猫人の女将、レイレイさん。


人虎の族長であるモラは不機嫌さを表しながら私達に近付いてきた。


「いやね、あんたにどうしても聞いてもらいたい話があるんだ。あんたにも体裁があるだろうさね。こうでもしなきゃ女の願いは聞いちゃくれないだろ?」


モラはレイレイさんから目を離さず睨み、小さく溜息をした後、口を開いた。


「お前達の願いをいちいち聞いていたら統制が取れんと言うてあるであろうが!!!昔に比べ、税なども充分緩和してやっている!何が不満なんだ!!」


身体を膨らませレイレイさんの眼前まで迫り鼻息荒く凄むモラに対し、レイレイさんはその顔を優しく撫でる。


「そんな話じゃない……私の大事な子の家族が人に殺された。本人は一昼夜犯され続け舌を切られたんだ…アルネロ、こっちへ来な。」


私がモラの前に出ると、モラはその姿を見るや否や興味を失せた様に視線を外す。


「レイレイ、分かっているだろうが、我等人虎が白兎などの為に動く事は一切無いぞ。そう、一切だ。この役立たず共には何の見返りも望めないからな。昔からそういう契約だ。住む事は許可するが、何も得られない代わりに我等は何もしないと。」


「分かってるさ、それでもあんたの領内で人が領民を犯し殺めたんだ。あんたがそれでも何もしないと言う話が広まってしまったら、困るかと思ってわざわざ来てやったんだろう?」


「広まるってお前………ちぃっ!!その為に女共を引き連れているのか!!」


レイレイさんは少し笑ったかの様に口元を緩ませると、小さな声でモラに言った。


「難しい話じゃない。この子を鍛えてやって欲しいんさ。馬鹿げた話だろうが、この子はその人間に復讐したいと言っている。同じ猫科の好さね、兎一匹飼うくらい造作も無いだろう?」


「阿呆か貴様。そんな事尚更出来る筈が無かろう。ジルフォーラ様にも何と言う。人に復讐を誓った兎を育てるとでも言わせるつもりか?」


「なに、あんたが直接見てやる必要は無いさね。人虎にもいるだろう?種族を気にしない戦闘狂が。」


「………グオンか…確かに奴なら…ふんっ。まぁいいだろう。俺が直接話を通してやる。後は本人次第だ。その兎が死んでも俺に文句を言うなよ。それに…レイレイ、これは大きな貸しだ。必ず返して貰うぞ。」


「あはは!いいともさ!店に来たらとびっきりのサービスをしてやろうさね!」



私は話の内容が分からないまま

心に火が灯りつつある事を感じた

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