えぴそど84 ダン進-行
事前に打合せをしていた通り、タンクである俺が先頭に立って歩く。
かと行って無策に進む訳では無く、すぐ後ろに付いたウサ耳アルネロの指示に従い進む形だ。
「ワナはいまのところないがユダンするな。」
「うぃっす!」
アルネロの後ろにはジャクシンさんとトモが横並びで後ろを付いて来ている。
俺は左右を確認するフリをしながら、二人の装備を見ていた。
アルネロに対し、まず目を惹くのが両手に付けられた篭手だ。
大きさは拳王キラハが付けていた物の半分程だが、右の篭手には大きく太長い二本の鉄爪がついており、左の篭手には一本の太い針の先が見えていた。
恐らくは殴ったりするより、切り裂くや刺す等の戦い方なんだろうか。
その仰々しさとは反対に、上半身は下着じゃないかと思える程簡略された水着型の革製の防具だ。
腰回りから足元にかけてはしっかりと防具を装備している分、篭手も相まり比重がどうしても下に行っている。
対してジャクシンさんはこれぞ女騎士!と言わんばかりの装備である。どちらかと言えば重装だろうか。
兜こそしていないにしろ、首から下は肌を露出している所は無く、しっかりとしたフルアーマー。
左手にはやや小ぶりな盾と、右手にはレイピアの様な刀身の細い剣を持っている。腰の所にはメイスの様な短い棍棒も携えているTHE剣士!だった。
「きさま、まえをみてあるけ。」
「あ、ああ。すまない。このまま進んでも問題なさそうか。」
「………あればいっている。おまえはだまってすすめばいい。」
ダンジョンに入ってほんの数分程だが、未だに一直線の通路が続いているだけだ。
「コースケ、心配するな。私もしっかり見ている。だいたい一階層目は直線が続くものだ。しばらく行けば二階層に降りる階段が見えるだろう。そこからが本番だと思えばいい。」
「そ、そうなんですね。それを先に言ってくださいよ。変に警戒しながら歩くのは消耗が激しいというか、なんというか。」
「いや、だいたいがというだけであって、必ずしもという訳では無い。アルネロの言う通り、油断はしない方がいい。」
「了解であります!」
俺がビシッと敬礼をすると、ジャクシンさんはわずかに微笑んでくれたが、アルネロは眉間にシワを寄せっぱなしだった。
俺は進みながら、今度はダンジョンの通路を確認していく。見れば見るほど、自然に出来たとは考えられない建造物だ。
今いるこの通路はレンガ積みのトンネルの様になっており、所々に発光する石が飾られている。
あくまでゲームマスターである神の志向により創作されたご都合主義なものだ。
「お、あれですかね階段は。」
「そうだな、ここから先は戦闘もあるぞ。サポートはしてやるから、自分のペースで戦ってみろ。」
「はい!ありがとうございます!」
階段を降りると、一階層とは違う色の通路に降りてきた。レンガ積みのトンネル風景には変わりは無い。
但し、今度は一直線では無く、多岐に分かれていた。
「えと、いきなりですけど左右どちらにいきましょうか…。」
「ふふっ、先頭はコースケだ。好きな方に行ってみろ。こればかりは私でも分からんからな。」
「う…りょ、了解。」
懐かしい感覚だ。
そう言えば、初めてこの世界に降り立った日も左右どちらかに進むか悩んだ事があったっけ。
たまたま選んだ方向にメイエリオ達が居て、その流れでジャクシンさん達と出会い、それから────
「きさま、はやくいけよ。」
「………う、うっす!」
幕間によくある今までの思い出をプレイバックする感傷タイムをウサ耳に妨害された。
「とりあえず右です!」
「あんいだな。」
「すいやせん!」
右に曲がり少し進むと、L時の突き当りになっていた。そのまま道なりに進もうとしている所でアルネロが急に俺の鞄を掴み、顔近づけた。
「まて………まがったさき50メートルぜんぽう、かいてきだ。とてもつよいまもののニオイがする。じゅうぶんきをつけろ。」
「……はい。」
俺は壁に背を向け、そっと顔だけを角から出し敵を確認した。
「…………。」
敵を視認すると、俺は再びアルネロの方向を向く。
アルネロは真剣な顔をして、小さく頷いた。
「………。」
俺はもう一度角から顔を出し、敵、そう魔物を確認する。
そこから見えたのは、どんぐりの様な木の実を齧っている若干大きめのリスだった。例えるなら某ぴーぴかーである。
「あの、ウサ耳さん。あれは強いんですか?」
再度アルネロの方を振り返ると、俺は率直な感想をぶつけた。魔物と言うより愛玩動物だった。
俺の言葉にアルネロは急に表情を崩し、笑いをこらえる様に頬を膨らませ、顔が真っ赤になっていた。
「ぷぷぷぷぷっ!し、しつれいだなおまえ!ど、どんなすがたでもまものはきけんなんだ!こころしてかかれ!ぷぷぷぷぷっ。」
「………。」
俺は完全にアルネロに遊ばれていた。
するとジャクシンさんが俺達の前に出て角を曲がった。
「ジャックマルモッテだな。まあ、全ダンジョンに出る魔物の中で一番弱い。見ての通り雑魚だ。だが、あいつは仲間を呼ぶ習性がある。」
ジャクシンさんは優しく俺に教えてくれた。
「アレが幾ら集まろうが問題では無いが、稀にプラチナリンクスを呼び込んでしまう。Aランク寄りのBランクモンスターだから灰色をした猫には気をつけろ。」
「は、はい。ありがとうございます。」
「おまえ、わかったんならさっさといけ。」
「ら、ラジャ。」
俺はジャクシンさんの前に出ると、短槍を構えゆっくりとリスに近付いて行った。
角を曲がった時からリスはこちらに気付いており、食べるのを止めていた。徐々に近づく俺を見るリスは明らかに警戒しているものの攻撃を仕掛けてくる気配は無い。
間合いに入る前に
俺は短槍に魔力を込めた




