えぴそど83 ダン到-着
翌朝、朝日が眩しく照らし始めた早朝。
準備を整えた俺達は緊張した面持ちで庭で待っていた。
しばらくすると、ジャクシンさんが馬車に乗り迎えに来てくれたので俺達は乗り込む。
「ありがとうございます、ジャクシンさん。馬車まで用意して頂いて。」
「構わん。それ程遠い場所でも無いのだがな、個々に馬に乗るより、この人数であれば効率的であろう。」
シュナは少し眠そうな目を擦りながら、コノウさんに手を握られつつ、俺達を見送ってくれた。
一台の馬車に全員が乗り込み、最終の打ち合わせをしながらダンジョンへと向かう。
前には馬車とは別に馬に乗った兵士が2人
ちなみにトモは馬車の後方を楽しそうに走って付いて来ていた。
「おーあそこだねー!サンキュー軍の人ー!」
ハピスさんが御者の間から前を確認し、洞窟型のダンジョンを目にし声をあげる。
その後直ぐに馬車は停止し、B班が降りていく。
「それじゃー康介!ダンジョン攻略頑張ってー軍の人に迷惑掛けないよーにねー!」
「え、ええ。ハピスさんも、みんなの事をどうかよろしくおねがいします。」
「ははー!私がいれば大丈夫だよー!」
どこかテンションが高いハピスさんと、ハピスさんが喋る度にビクついているメイエリオとユージリン。ヤッパスタはどこか神妙な雰囲気を醸し出し、ダンジョンを眺めていた。
「みんな!お互いいい報告が出来る様に頑張ろう!」
「あ、ああ!コースケもしっかりな!」
「うん…が、頑張るよ…。」
「旦那ぁ!気ぃつけてな!」
鼻歌交じりでテンションの高いハピスさんを先頭に、顔がひきつった二人が含まれたB班がダンジョンに入って行った。
空いたスペースにトモを上げ、みんながダンジョンに入っていく姿を眺めていると、再び馬車は動き出し先に進んで行った。
「どうだコースケ、緊張しているか?」
「いえ、緊張と言うのなら最初に依頼されたブロスの森の方が緊張しましたよ。今日はお二人の胸をお借りし、ダンジョンというのがどんな物なのか知っていければと思ってワクワクしています。」
『ちっ!』
何故だか分からないが、ウサ耳アルネロは俺にメンチを切ったまま小さな舌打ちをした。
「既に聞いているとは思うがダンジョンについておさらいしておくぞ。」
ジャクシンさんはトモの毛並みを撫でながら、ダンジョンについて説明してくれた。
「今回向かっているのはBランクダンジョン。先程の彼らが入ったのもそうだが、ダンジョンの中では最低ランクのものだ。」
そう、最初に聞いた時、まずそこに驚いた。
この世界のダンジョンの難易度がそこそこ高いという事。
ざっくり言うと、Bランクダンジョンは地下に向け30階まであり、Bランク冒険者が2名以上のパーティで15階まで踏破できるレベル。
Aランクダンジョンは地下に向け31階以上あり、Aランク冒険者2名以上で30階までは踏破できるレベル。
もちろん、階層が深くなれば魔物も強くなり、罠等も増えていく。その見返りにダンジョン産の希少な素材やアイテム、更には明らかに人の手が加えられたかの様な強い装備品の数々が手に入る。
夢があるとしか思えない環境だ。
まあ、実際ゲームでもよくよく考えれば似たようなもんだ。誰が何の為に宝箱と装備品を置いているのかは不明なのだから…
「まずは正午までに10階層までは行ってみたいものだな。」
「私には全然ペースが分かりませんのでジャクシンさんにお任せしますよ。あ、ちなみに30階まで行ったらどうなるんです?」
「15階毎にそれまでに出た魔物より強い魔物が出るフロアに当たる。30階も同じく強力な魔物が鎮座している。それを倒せば魔法陣が現れ地表飛ばされる攻略といった感じだな。途中で帰る場合は普通に引き返せば良い。」
んもぅ!そういうの!そういうの待ってた!
如何にもゲーム感じゃん。
なんだったらこれからずっとダンジョン攻略でも良くなってくるよねこれ。ボスを倒してアイテムをゲットして一攫千金だ!
「おまえ、そのにやけたつらをやめろ。おまえはなにもわかってないな。」
ウサ耳が不機嫌そうに浮ついた俺の心に釘を刺してきた。
「わ、悪かったよ。ただ、冒険となるとやっぱりワクワクしてしまう気持ちがあってさ。」
「……おまえのこうげきをはじくすきるは、だんじょんのわなにはこうかがないかのうせいがあるんだぞ。けんおうさまとのたたかいでなにをまなんだんだか…ゆだんしていたらふつうにしぬぞ。」
おうふ!!
このウサ耳に痛い指摘を受けてしまった!!というか俺の最大の弱点が既に露見されている!!!
「う、ごめんよウサ耳…真剣にやるよ。」
「ふん。」
最近ではウサ耳と呼んでも怒らなくなってきた。
「まあ、そこまで心配するなコースケ。アルネロは罠や毒の対処にも特化している。初めてのダンジョンがどの様なものか愉しめば良い。私自身もプライベートの冒険は数年ぶりだ。心は躍っているよ。」
そういうとジャクシンさんが優しそうに微笑んだ。
最初に会った時からは考えられないくらい固さが無くなっている。憑き物が取れたと言うのはこれを指す言葉ではなかろうか。
「ジャクシン様、到着致しました。」
「うむ。」
馬車から降りると、岩の断面に真っ赤で頑丈そうな扉が付いていた。瘴気というやつだろうか、禍々しい雰囲気が漂っており、俺のこめかみからは汗が一粒落ちてきた。
ジャクシンさんとウサ耳アルネロも馬車から降り、武具を装着していく。
兵士の人達が扉を開けると、奥へと続く長い通路が見えた。
「これが…ダンジョン。」
「そうだ。怖じ気着いたなら今ならまだ引き返せるぞ。ふふっ。」
「まさか。行きましょうジャクシンさん。」
荷物を背負うと短槍を掴み
俺は前へと歩きだした




