えぴそど80-勇23 虹色の実
ベルは意を決し、神に更なる願いをしていた。
「不躾で差し出がましい願いだと思ってはおります。しかし、我等が偉大な神のお力を頂け無ければ、この男に止めを刺す事が叶いません。」
「……なぜ出来ないと断言できる。」
「御覧下さい。すぐそこに牛の魔物が、魔法陣を展開し今にも放たんとしております。」
郭東は二匹の魔物を見ると、時間を戻せば直ぐに何かのスキルを放ってくる事は明白だった。
「あのスキルを拝見しましたが、角が高速で伸び、私は避ける間も無く四肢が四散するでしょう。それではこの男の魂の救済には繋がりません。」
そこまで聞くと、郭東はとても面倒臭そうに答えた。
「…はぁ………いいだろう。魔物であれば俺の力を使える。排除してや────」
「賢者を!!」
「……なに?」
「賢者の神託を頂きとう御座います。」
「…賢?……ああ色欲か………出来なくは無いが……あれらの力は人を選ぶ。貴様が適応しなければ死ぬだけだぞ。」
色欲と聞いたベルは咄嗟に判断し、ローブを捲くりあげ下着を露わにし、笑顔で答えた。
「必ずや受け入れてみせますわ!」
「…………ふん。分かった。手を出せ。」
ベルは跪きながら右手を差し出した。
郭東はその手を握ると、顔を近づけて言う。
「いいか?これは契約だ。貴様はこれから俺の手足となり生きていかなければならない。俺の願いは唯一つ、アスタリアが滅ぶ事。そして、その為の禁忌も生じる。帝国領に属する人には手を出すな。この禁を破らば、その力は失われるぞ。」
「ええ、分かりましたわ。必ずや我が偉大なる神の御心に従い、この世界に平和をもたらしましょう。」
「ふっ……せいぜい俺を喜ばせろ。」
その瞬間、ベルの心臓が強く大きく脈打つ。
そして膨大な量の知識が頭に流れ込んでくるのが分かったが、その余りにも強大な力に頭と胸が破裂しそうになっていた。
「え……がぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ベルは涙や鼻血、涎に尿などを撒き散らしながら、地面を転がり絶叫する。郭東はその様子をつまらなそうに眺めながら言い放った。
「やはり生娘だったか。ふんっ、せっかく傲慢を殺せるチャンスを…。」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「もう良い…飽きたわ。髪長よ、そのまま野垂れ死ね。俺はもう行く。」
そう言うと、郭東の姿は消えた。
更に時間の流れが戻り、叫びながらのたうち回るベルに向け、牛の魔物のスキルが放たれた。
牛の魔物の角は急激な速さでベルに向かい伸び、その胸に刺さらんとした時、ベルの身体から魔法陣が展開され、光の壁がベルと男を包み込み、牛の角を光の壁が食い止めた。
使われた魔法は〈拒絶〉
それは、歴代賢者が使用していた、全ての攻撃を一定時間無効化する空間を創り出す最上級魔法だった。
ベルは肩で息をしながら、獣の様な姿勢でゆっくりと立ち上がる。その髪色は真っ白になっており、鼻血がぽたぽたと落ちていた。
ベルの頭の中では無機質な声が続いている。
【前述とは別に神託により以下の条件を満たしました】
【経験値370000を獲得しました】
【レベルが45に上昇しました】
【〈贖罪〉がスキルに追加済みです】
【〈宵闇〉がスキルに追加済みです】
【〈久遠〉がスキルに追加済みです】
【〈審判〉がスキルに追加済みです】
【〈神威〉がスキルに追加済みです】
【〈断罪〉がスキルに追加済みです】
【〈拒絶〉がスキルに追加済みです】
【〈天誅〉がスキルに追加済みです】
【〈終極〉がスキルに追加済みです】
【〈白夜〉がスキルに追加済みです】
【〈朱雀〉がスキルに追加済みです】
【〈桜華〉がスキルに追加済みです】
【〈雷霆〉がスキルに追加済みです】
【〈契約〉がスキルに追加済みです】
【〈巫の眼〉がスキルに追加済みです】
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
ベルは杖を拾うと、上にかざしながら詠唱を始め、片手で鼻血を拭く。
スキル〈久遠〉
男の上部に現れた魔法陣より、天使の様な翼を持った人型の発光体が舞い降り、そのまま男の身体の中へと消えていった。
「…ん……ん!?なんだ!?」
男は自身の身に起きた事を理解出来ていなかった。
身体の傷はふさがり、痛みも疲れも無くなっていたのだ。更に折れていた筈の右腕にも感覚が戻り、動かせる様になっている。
男は直ぐに立ち上がり正面を確認すると、牛と馬の魔物が攻撃を何度も繰り出している。
しかし、その攻撃は届かず、見えない壁に遮られていた。
男は横に居たベルに視線を送る。
何故か自分とは対象的にボロボロになっているベルの姿がそこにあった。
「女…お前何をした。」
「ふふ……ちょっとだけ頑張ってみましたわ。」
見た目はボロボロだが、明らかに先程より纏う覇気が違う事に気付いた男は何かを察した様に口を開く。
「その刻印は賢者だな。その状態で戦えるのか?」
「ええ、問題ありませんわ。スキルも把握しております。私が牛を、貴方は馬をお願い出来ますかしら。」
自身のローブの端を引きちぎり、血が止まらない鼻に当て、ベルは微笑みながら男に指示をした。
「ああ、分かった。こっちはいつでもいいぜ。」
「では、壁を解きます。いきますわよ。」
二人は共に見つめ合いながら口元を緩め
魔物に目を向けると攻撃の構えをとった
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なんとまだ続きます
康介いつになったら出てくるんや




