えぴそど79-勇22 無色の実
「ちっ!!くそが!」
〈石渡 土蜘蛛〉
〈雷音 舞夢〉
〈中級格闘スキル ゴリアテガード〉
「ぐはぁっ!」
ベルに投げつけられた巨大な斧に対し、男は身体を硬質化させながら、距離を詰めるスキルを使い、ベルと向かってくる斧の間に立った。
更には折れた腕をも使い、両腕でガードスキルを発動させ斧を間一髪防ぐも、男の限界が訪れ倒れてしまう。
「あっ……………あぁぁぁ!しっかりして!!ねぇ!!しっかり!!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
「……うる…せぇ…落ち…着…け…」
ベルは回復するのも忘れパニックになっている。
自分が叫んでしまった事により、男が瀕死になってしまったのだ。
(そう!そうですわ!お、落ち着くのよベル・ホロント!わわ私はいつだって、れれれ冷静なの!)
すぐ回復魔法の詠唱を始めるも、この先の顛末を想像してしまい、恐怖により顎がガタガタと震え、上手くいかない。
(せ、せっかく二匹を倒せる活路が見つかったと言うのに………これじゃぁ何にもならないじゃない!何をしてるの私は!!!)
牛と馬の魔物がこちらにゆっくりと向かって来ていた。
「来ないで!!!」
ベルは上手くまとまらない魔力操作と詠唱を諦め、杖を突き出し、牛の魔物に向かいただの魔力を放出したが、牛の魔物はそれを軽々と避け、尚もこちらに向かってくる。
ベルは再度男の方を見る。
男は倒れたまま目を閉じており、虫の息だった。
ベルは杖を手放し男に駆け寄ると、上から優しく覆い被さり、目を閉じて静かに祈りを捧げた。
「我等が偉大なる神よ…彼の者の魂を、その大いなる慈悲のお心で…どうか…どうか導いて下さいませ…」
牛の魔物が両腕を上げ、魔法陣を展開させる。
ベルは下唇を噛みながら、最期の時を覚悟した。
その時、不意に辺りが強い光に包まれた。
温かくも冷たい不思議な感覚を覚え、ベルが顔を上げると、異形の姿をしたソレがそこに立っている。そして、ソレが口を開く。
「俺の名は郭東。貴様の無様で滑稽な願いを聞いてやろう。」
ベルは何が起こったのか分からなかった。
目だけを動かし魔物を確認すると、固まったまま動いていない。魔法陣の回転も止まっていた。
「どうした髪長。今は時間を止めている。あやつらに襲われる事はあるまい。だから安心して聞け。その者の魂を良きに計らい、俺が保護してやろう。」
ベルは理解が追いついていなかった。
今自分の目の前に居るのは、紛れも無く唯一の神、郭東神そのものだった。
その風貌と喋り方は言い伝え通りで、パーフラ教徒であれば瞬時に判断できる程、日頃から想像し祈りを捧げている存在である。
しかし、実際に目の前にすると、ベルは自身が幻想を見ているのか、既に自分が死んでしまっているのか判断出来ない状態だった。
「髪長、聞いているのか?俺を無視するとはいい度胸だ。」
郭東が少し苛立ちを表したかの様に言うと、ベルは焦りながらも両膝を突き姿勢を正し、言葉を返す。
「も、申し訳ございません。我等が偉大なる神よ。咄嗟の事で動揺しておりました。私如き小物の言葉をお聞き入れ頂き、恐悦至極で御座います。」
「ああ、構わん。それよりもその餓鬼だ。どうやらまだ生きている様だ。それでは魂を導けん。止めを刺せ。」
「……え?」
「なんだ、人の子等は本当に耳が遠いのだな。不憫なものだ。いいか?それは未だ生きているから殺せと言っている。ほれ、貴様が持っていたあの棒を、首に突き立てばいいだけだ。」
ベルは男の方を見る。
時が止まっているのは魔物だけでは無く、男も止まっていた。神が言う通りなら、このままでは魂を導いてくれない。しかし、自分をここまで護ってくれた者だと言う葛藤が生じる。
郭東がベルの投げ捨てていた杖に手を向けると、杖は浮き上がりベルの元へと浮いたまま近付いてきた。
「時間が止まっている状態では殺せん。時間を戻して自然に死んでも意味が無いのだ。人の手で殺めなければならない。準備が出来たなら時の流れを戻してやるから、教えろ。」
ベルはそれを手に取ると、男の首元を見つめながら考える。束の間だったが、目の前には男と一緒に居た光景が思い浮かべられた。
(
そもそもこの男は魔族であり拳王。
人族の大敵であり、魔王の手下。暴虐の限りを尽くし、私達の生活を脅かす者。
それなのに、なぜ馴れ合いに興じていたのか。
自分が生き残る為に利用していた?心のどこかで、強い力を持つこの男を頼りにしてしまっていた。
そう、利用していただけ。
他には何もないわ。そう何もない。
ならば動けなくなったこの男にもう用は無い。
何も気にする事無く、この杖を首に突き立てればいい。
憎さからでも世界平和の為でも無い。
この男の魂を神に拾って頂く為。
我等が偉大な神による慈悲深き救済なの。
なら!!!
なら、なぜ私は泣いているの!!!?
この涙は一体なんなの!!!?
なぜ?なぜわざわざ止めを刺す必要があるの?
出来る筈ないじゃない…
自然に死んでは意味が無い?なぜ?
人の手で奪われる命に価値があるなんておかしいわ!
私はこの人を死なせたくない!!
)
ベルは自身の中にある感情に気付き、決意する。
「髪長、さっさとしろ。時間を止めるのは徳を大きく使う。あまり長い時間は待てないぞ。」
「……我等が偉大なる神よ。もうひとつ、お願いが御座います。」
「なんだ?さっさと言ってみろ。」
「私めに、お力を授けて頂く事は叶いませんでしょうか。」
「…………なんだと?」
ベルのその目は
強く真っ直ぐと神に向けられていた
・
・
・
ベルの心情部分
手直しする可能性があります




